【スニークプレビュー】 「マクドナルドを理解するためのコラム②:マクドナルドの低迷とアメリカの威信の低下」『マクドナルド 失敗の本質』から

 マクドナルドに関して、本書ではいくつかのコラムを準備している。ブログに掲載する本コラムは、第4章「お客がどこに消えたか」の最初に登場する。マクドナルドの低迷と洋画(米国文化)のシェア低下が同期しているという「米国文化の威信低下仮説」を、具体的なデータで検証したものである。



「マクドナルドを理解するためのコラム②: マクドナルドの低迷とアメリカの威信の低下」

  マクドナルドは、アメリカ合衆国という国の文化を背負っている。「原産国効果」(COO)の影響が大きなブランドである。それと同時に、だからこそ、アメリカの政治経済的な影響力が、マクドナルドのハンバーガービジネスを支えている。そして、アメリカの政治経済力の威信が揺らぐとき、グローバルなブランドとしてのマクドナルドのビジネスは低迷する。
 1980年代にフランスに出店したとき、マクドナルドに対するフランス人の態度は冷淡なものだった。マクドナルドのハンバーガーは、いわゆる「ファストフード」である。素早く、低価格で、しかも短時間で提供する食事のコンセプトは、フランス人のライフスタイルとは相いれないものだった。
 フランス人は、カフェでまったりした時間を楽しみたい人種である。フランスだけでなく、イタリアでもマクドナルドの進出は反対運動に会った。ご存知のように、イタリアは、「スローフード運動」の発祥の国である。なお、フランスのマクドナルドは1972年に進出後に一度撤退している。再上陸は1979年であったが、その後もマクドナルドは欧州では苦戦をしている。

 翻って、日本の消費者について考えてみよう。第二次大戦後しばらくの間(~1985年)、日本の消費者は、米国文化に対して憧れの気持ちを抱いていた。例えば、ジャズやロックなどの音楽やハリウッド映画などは、日本人にとって米国文化の象徴だった。実際、円に対するドルの貨幣価値も高かった(240円~360円)。
 ところが、戦後70年のうちに、ドルの価値は約3分の1に切り下がった。同時に、米国文化の価値も3分の1になったのかもしれない。「米国ブランド」の経済価値を見てみよう。日本人が鑑賞している映画や音楽の中で、米国作品が占めるシェアを計算してみる。今や、ハリウッド映画など、米国ブランドを日本人が熱狂的に支持することはない。
 マクドナルドが進出した1971年、全映画作品に占める洋画(ヒット作品の上位はほぼハリウッド映画だったと推定できる)の比率は、約51.3%だった。マクドナルドの店舗の拡大とともに、洋画のシェアは一直線に高まっていく。2002年、全映画作品に占める洋画の比率はピークを打つ(72.9%)。この時期、藤田時代のマクドナルドが売上高でピークを極めるタイミングとほぼ重なる。

 その後(2002年以降)、次第に洋画は邦画に取って代わられることになる。日本市場における洋画の地位低下は、マクドナルドの売上が低迷するのと同期している。10年間で、邦画のシェアは、27.1%(2002年)から、65.7%(2012年)に一気に上昇している。しかも、そのヒット作の多くは、子供向けの漫画の映画化やジブリ作品などアニメなどの作品である。いずれにしても、ファミリー向けの邦画が日本市場では支持されているのである。
 映画の例を見てもわかるように、日本人は、自国製と海外作品(製品)をバランスよく楽しむようになっている。日本人の文化的嗜好は、音楽や映画、書籍に限られるものではないだろう。食事やファッション、住生活、雑貨小物などに対する好みも、もはや米国一極主義ではもはやなくなっている。21世紀に入ってからのマクドナルドの低迷は、「米国一極主義」が終わったという時代認識を抜きには考えられない。

 1985年以降、日本に進出してきたアメリカブランドを想起してみよう。スターバックス(1996年、銀座に1号店を出店)やアップル(1992年にアップルコンピュータ㈱設立)は、米国の国力や文化と独立に世界中に広まったブランドである。良い意味でコスモポリタンであり、「スマート」なブランドである。スタバやアップルのような米国文化に依存しないタイプのブランドを、「スマートアメリカ」のブランドと呼ぶことにしよう。
 これに対して、マクドナルドやコカコーラは、明らかに米国の政治経済力を背景にして、グローバルに展開したブランドだった。こうしたブランドを、「ビッグアメリカ」のブランドと呼ぶことにする。(この着想は、2014年度の法政大学経営大学院マーケティング専攻の学生発表(B班)の発案である)。 Big Americaキャンペーンの第2弾が必ずしも成功しなかったのは、こうしたキャンペーンの持つ名前が、「Big America」だったからとも考えられる。米国の政治力や経済力、文化力を背景にした「ビッグアメリカブランド」の威光は、もはや失われている。
 下のグラフからわかるように、洋画(米国文化)の興行収入は、邦画(日本文化)にとって代わられようとしている。一度ならば、めずらしいものを試してみようと思った日本人も、二度目のビッグアメリカには驚かなかったのである。
 ちなみに、マクドナルドの全店売上高(システムワイドセールス)と洋画のシェア(出典:映画製作者連盟)はほぼ同じ推移を示している。むしろ、売上が増加していた原田時代の7年間(2004~2010)は例外なのである。

 暦年       70   75  80  85  90  95  00   05  10  13
 洋画シェア 40.6% 55.6 45.0 49.1 58.6 63.7 68.2 58.7 46.4 39.4