むかし懐かしい秋田の風景。旧2級国道(3桁国道)を車で走っていると、道路脇にビーチパラソルが見えてくる。国道脇でシャーベット売っているは、「ババヘラ」のおばさんだ。今回は、秋田の夏の風物詩を紹介することにした。
「ババヘラアイス、秋田の夏の風物詩」『北羽新報』2025年9月22日号
真夏に秋田の国道沿い(7号線など)を走っていると、ビーチパラソルの下でアイスシャーベットを売っているおばさんを見かける。秋田名物の「ババヘラ(アイス)」だ。ババヘラとその販売方法を発明したのは、秋田の進藤冷菓(と言われている)。この頃は、さいたまスーパーアリーナなど、全国のイベントにも呼ばれることがあるらしい。販売している冷菓も美味しいけれど、その販売方法が一風変わっていておもしろいからだ。
「ババヘラ」は、秋田県人にとって子供のころから馴れ親しんできた夏の風物詩。もともと夏の一時期の限定販売だったが、いまは5月の連休から販売が始まる。ババヘラは、県内で露天販売される氷菓の一種、およびその販売方法。販売員を務める中年以上の女性が、金属製のヘラを用いてコーンへ盛りつけるので、この呼び名がある(ウイキペディアを編集)。
ババヘラを発案したのは、進藤冷菓(2002年に商標登録済み)。パラソルも商標登録されている(こちらは児玉冷菓)。朝7時ごろ、おばさんたち数人を乗せた専用の送迎車が、幹線道路脇の駐車スペースなどへ順番に「ババヘラたち」を落していく。ババヘラの販売は、通常は夕方4~5時まで。販売終了後、専用車がおばさんたちを逆順で回収していく。
10年ほど前のことになる。「森吉森のテラス」(@北秋田市)を訪問した際、ひさしぶりでババヘラアイスを食することがあった。入り口付近の駐車場でアイスを販売しているおばさんは、かなりの名人らしかった。なぜなら、ヘラを使ってコーンにアイスを盛る姿が実に巧みで、バラの形に盛ったアイスが特別に美しかったからだ。
彼女は定番の「頬かむり」をしていなかった。ブランド物らしき茶色の長袖シャツを着て、化粧もしっかり。さぞかし若いころは、とびっきりの秋田美人だったのだろう。盛り方の技術が巧みなうえに、会話も面白かった。
注文を受けている間に、ババヘラを初体験している都会から来た小学校3年生の女の子に向かって、標準語っぽい(笑)秋田弁で、ババヘラの由来を説明している。「中に入っているのは二色で、バナナとイチゴ味だよ」と、ニコニコ顔で女の子に話しかけている。
途中でわかったのだが、彼女はババヘラアイスの経営者だった。会社名は、「千釜冷菓」! 森のテラスの駐車場に停めてあるバンを自分で運転してきていた。自らがマネージャーだから、雇っているババたちを途中の駐車場に落としてきている。すごい!
“プレーイングマネージャー“の彼女は、パラソルをたたみ始める時間が他のババヘラたちよりも少しばかり早い。夕方4時に配下のババヘラたちを回収するため、朝の順路とは逆に、回収作業のためのバンを自分で運転していく。
「高校生のころに、アルバイトで”ギャルヘラ”をはじめたわけ」とうれしそうに女の子に話してかけている。卒業したギャルヘラは、アネヘラ(姉ヘラ)になり、結婚してママヘラになった。そして、いまはババヘラになったわけだ。それもただのババヘラではない。雇い人を何人か抱えている経営者のババヘラだ。彼女の人生は充実している。
秋田の女性は元気だ。実にたくましい。日本の田舎も捨てたものではないぞ。「秋田に旅したら、是非ともババヘラを楽しんでみてください!」。このババヘラの話を、ことあるごとに友人たちに紹介している。
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