(その109)「柴又界隈、東京下町が変わる」『北羽新報』(2025年10月27日号)

 東京下町に移住して、今月で8年目に入った。夫婦二人の生活が、次男の家族と合流して6人家族になった。孫たちも交えて、楽しい日々が続いている。しかし、昭和の面影を色濃く残している柴又界隈にも、小さな変化が見られるようになった。人口減少と国際化の波が地域社会に及ぼす変化の兆しを、今月号では紹介してみたい。
  
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「柴又界隈、東京下町が変わる」『北羽新報』2025年10月27日号
 
 円安、物価高、少子高齢化、人口減少社会の到来。時代の変化の波は、わたしたち家族が暮らしている東京下町、柴又界隈にも押し寄せてきています。今月号のテーマは、人口移動とそれに伴う地域社会の変化についてです。
 2025年1月時点で、東京都の人口は1400万人を突破しました。「東京一極集中」とやや批判的に報道されることも多いのですが、都内の人口が増えているは、つぎの2つの要因によるものです。都内への人口の転入超過と、外国人労働者の増加です。
 
 コロナ禍の2021年は、ごく短い期間でしたが、1995年以来26年ぶりに東京都の人口が減少しました。関東近県への転出が都内への転入を上回ったからです。しかし、その後は都の人口が再び増加に転じています。転入が転出を上回る状態が続いているからです。なぜなのか?
 引っ越してすぐのことです。葛飾区の小学校で学校給食が無償化されました。東京都で初めて葛飾区長が提案した手厚い教育付随サービスは、若い世代にとっては魅力的です。二世帯住宅で一緒に暮らしている義理の娘は、「やったー、うれしい」と区長の施策に拍手喝采でした。
 調べてみると、葛飾区には公立の小学校が56校ありました。しかも孫たちが通っている小学校では、十数年前と比べて生徒の数もクラスの数も減っていませんでした。
 
 ところで、わたしが所属している消防団の仕事の一つに、町内で催されるお祭りなどの交通整理や周辺警備があります。地域の行事に集まってきている人を見ていると、若いファミリー層の参加が目につきます。世間一般で言われているのは、少子化と出生率の低下ですが、葛飾区の様子はそれとはかなり違うようです。
 「こんなにたくさんの子供たちが、この町に住んでいるのだ!」と驚きました。東京都はお金持ちなのです。大企業が納めてくれている税金を、子育て支援などに使える環境が整っているのでした。
なお、葛飾区は、中小企業者への支援が手厚いことでも有名です。税金の一部は、中小企業の誘致や財政的な支援に使われています。
 例えば、葛飾区には、「プレミアム商品券」という中小商店を優遇する制度があります。街の商店や飲食店で使えるクーポン券です。1万円で1万2千円分の買物ができる金券が、年2回、区民に抽選で配布されています。その恩恵もあって、葛飾区内では、新規に飲食店を開業する若者が増えています。
 
 都の人口が増えている2番目の要因は、外国人労働者の増加です。都内のコンビニや飲食店では、日本人のパート店員さんを見掛けなくなりました。代わりに店を運営しているのは、外国人のアルバイト従業員です。中国人や韓国人の留学生は激減して、最近になって増えているのが、ミャンマーやネパール、ベトナムからの研修生です。
 ちなみに、葛飾区では高齢者が亡くなると、その昔は民家の跡地が駐車場に変わりました。しかし、近頃では空き家を宿泊施設に改装するケースが目につくようになりました。わが家の近くでも、大きなキャリーケースを抱えて裏通りを歩いてくる観光客を見かけます。
 どうやら日本人の富裕層や中国人の資産家は、都心や湾岸のタワーマンションから下町の民泊施設に投資先を切り替えているよう見えます。インバウンド客が増えることを予想してのことだと思いますが、今後の政治情勢次第では、円安とインバウンド需要はもしかすると短命に終わるかもしれません。

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