(その17)「それ食べていいのに:賞味期限と消費期限の誤解」『北羽新報』(2017年12月20日号)

 この原稿は、以前に(東海道新幹線で事件が起こった二か月前)、本ブログに掲載した文書を下敷きにしたコラムです。タイトルを変更して、地元紙に掲載しました。元の原稿は、ブログのリストからすでに削除されています。改題して、「それ食べていいのに」としました。

 

「それ食べていいのに:賞味期限と消費期限の誤解」
『北羽新報』2017年12月20日号
 文:小川孔輔(法政大学経営大学院)

 

 二ヶ月ほど前のことです。毎週末に、日本列島が季節外れの台風に襲われることがありました。東海道新幹線も台風のために大幅に遅れて、乗客が車内で数時間も足止めを食らいました。この緊急事態に対応するため、お腹を空かせた乗客に、JR東海が備蓄してあった乾パンを配布しました。
 ただし、この乾パンが「賞味期限切れ」だったことを乗客から指摘を受けました。この時間を報じた新聞の論調は、「賞味期限切れのパンを配っていいのか」でした。どちらかといえば配布に批判的な論調ですが、皆さんはどのように考ますか?この記事を書いた記者は、食品の品質保持に関してあまりにも無知ではないでしょうか。
 『朝日新聞』(10月23日)に掲載された記事が、翌日のYahoo!ニュースに転載されましたので、日本人の多くがこの事件を知ることになりました。JR東海のその後の対応はわかりませんが、パンを“消費すること”に健康上は全く問題ないのです。美味しく食べられたかどうはわかりませんが、お腹を壊す乗客など出るわけがないのです。
 
「新幹線内で足止め客に賞味期限切れパン配布 JR東海」
JR東海は23日、台風21号の影響により熱海駅(静岡県熱海市)で停車していた東京発静岡行きの東海道新幹線「こだま」の乗客に、賞味期限が約2カ月過ぎた非常食のパンを配布したと発表した。乗客から、健康被害の訴えはないという。
JR東海によると、23日午前3時ごろ、車内で夜を明かす乗客に、駅で備蓄する5年間保存できる缶詰入りのパン128食を配布したところ、乗客から賞味期限切れだとの指摘を受けた。パンの賞味期限は8月12日と20日で、15食を回収したという。
 
 この記事の存在を、友人の井出留美さんにお伝えしたところ、次のようなお返事がありました。メディアの無知には困ったものです。「賞味期限」(=食品として美味しく食べられる期限)と「消費期限」(=それ以降は食品として食べてはいけない期限)は似て非なるものなのです。一般の人たちも、賞味期限と消費期限のちがいをどこまで理解しているのか。怪しいものです。
出井留美さんは、『賞味期限のウソ』(朝日新書、2015年)の著者です。以下のコメントに、わたしはまったく同感でした。
 
  小川孔輔先生、
  記事のお知らせありがとうございました。
朝日新聞の記事が転載されたYahoo!Newsはこちらです(*出井さんが記事の最後にご自身の見解をコメントとして載せています)。
「JR東海は、賞味期限が切れる前に備蓄を交換しておくべきだったかもしれない。だが非常事態に際し、五感で食べられると判断し、善意で顧客に供したのであればベターな選択ではないか。賞味期限は、日持ちが5日以内の食品に表示される消費期限と違い、品質が切れる日付でなく美味しく食べられる目安である。国(消費者庁)は「賞味期限が切れてもすぐ食べられなくなる訳ではない」としているし、企業は安全係数を掛け実際の日持ちより短めに設定している。缶詰は、缶の品質保持期限=3年から賞味期限3年とされているが、理論的には半永久的に持つ。国が「賞味期限は目安だから消費者が判断し食べなさい」と言う一方、備蓄食品の多くが賞味期限の1年前に新品と交換され廃棄されるのは矛盾している。メディアは、これを報道するのなら、消費期限と賞味期限の違いや賞味期限は美味しさの目安である旨も説明すれば、消費者の誤解も食品ロスも減るのではないか。」

 

 思うに、JR東海・指摘した顧客・報じた朝日新聞の三者とも、賞味期限とは何ぞやを理解していなかったと推察されます。報じたメディアは、この記事を通して、読者に何を伝えたかったのでしょうか。