(その34)「花屋、ロンドンに出店」『北羽新報』(2019年5月28日号)

 ロンドンから、日本に送ったコラムです。青山フラワーマーケット(井上英明社長)が、日本人として初めてとしてロンドンに出店しました。現地の様子を、どこより早く秋田の人に知らせました。ちなみに、ロンドンっ子たちは、EUの離脱には冷めた感じです。議会の混乱はほとんど気に留めていないを様子でした。

 
「創業30年の花屋、ロンドンに出店する」
『北羽新報』2019年6月28日号 
 文・小川孔輔(法政大学教授)
  
 この連載を始めて3年になりますが、今回は初めて海外から原稿を送ることになります。先週の土曜日(5月18日)から一週間の予定で、ヨーロッパに視察に来ています。オランダはアムステルダム周辺を、英国はロンドン市内と郊外の都市を中心に、花産業と食品スーパーを視察しています。
 個人のブログでも紹介しましたが、4年前にパリに店を開いた青山フラワーマーケット(東京都港区)が、昨年5月にロンドンに欧州2号店をオープンしました。今回の調査目的の一つが、ロンドンの青山フラワーマーケット(略称、青フラ)を視察して、支店長の宮崎大作さんにインタビューすることでした。  
 秋田には青山フラワーマーケットの店がありませんので、簡単に同社の事業の成り立ちを説明します。青フラは、都内を中心に約100店舗を展開する花屋のチェーンです。社長は井上英明さん(55歳)。創業は1989年で、売上高は80億円です。わたしが会長を務めている日本フローラルマーケティング協会の有力メンバーです。
 お店の特徴は、業務用や仏花をほとんど扱わないこと。日常使いの花を、値ごろ感のある価格で提供しています。キッチンブーケ、リビングブーケの名前で、短い丈の洋花(ミニブーケ)を350円〜1500円で販売。顧客は主に若い女性ですが、近年は男性客も増えています。
 
 さて、ロンドンに出店することになった青山フラワーマーケットですが、フランスの店舗を見たセルフリッジスの担当者から、井上社長に直接出店の依頼があったようです。驚いたことに、隣の売り場は高級ブランドのエルメスでした。創業30年の日本の花屋が、ロンドンの最高級百貨店に出店できたことは、革命的な快挙と言っていいでしょう。
 小売業の海外進出では、商品や売り方を現地の事情に合わせなければならず、商売はむずかしいところがあります。たとえば、ロンドンの百貨店は12時間営業です。英国には1日8時間労働の規制がありますから、2交代制でシフトを敷くことになります。通常の倍の9人を雇用していますから、かなりのコスト高になります。
 「初めは事情が何にもわからず。それでも、一年経って商売はようやく軌道に乗ってきました」(宮崎支店長)。今年のバレンタインの売り上げは、1日で3万ポンド(約450万円)。100ポンド(1万5千円)以上の大きなサイズが売れるそうです。最高200ポンド(約3万円)のプレゼント需要が中心です。
  
 セルフリッジスの反対の入り口には、王室御用達のMoyses Stevens, Florist Artistryがありました。ここでは、ラウンドブーケが30ポンド〜180ポンド。青山フラワーマーケットの方がサイズも大きくて値段も高めでした。それでも売れているのは、ふわっとしたデザインが他の国にないテイストだからと思われます。青山フラワーマーケットが現地に受け入れられているのは、ラッピングの和紙が珍しいからのようです。ロンドンに和紙はありません。現地のラッピング用紙はペラペラな感じがします。
 一日の顧客は30〜40人ほど。中心は現地の金持ちと思いきや、アラブ系、中国系、ロシア系が上顧客で、最後に現地のイギリス人とのこと。
 出身国ごとに好みの色が異なるようで、アラブ系はピンク、中国人は赤、イギリス人には白がが好まれるようです。私たちが見学している間に、9坪ほどの店内に入ってきたのは、身なりの良いアラブ系の若者カップルでした。
店舗の色彩は、花がめだつように黒を基調にしていました。宮崎さんも店員さんも、黒のドレッシーな制服を身にまとって働いていました。
 青フラの創業者、井上英明さんの最終目的地は、セントラルパーク@NYです。社名の由来は、New Yorkのセントラルパークから来てきます。パリとロンドンが軌道に乗ったら、次は米国、ニューヨークでしょう。
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