社外取締役の弊害を論じたことがあります。休刊になった『新潮45』に、長文の論考を掲載したのが、2017年ごろだったと記憶しています。現場に権限が降りてくなくなるからです。最寄り駅、京成高砂の駅構内に出店した回転すしチェーンの「スシロー高砂店」で起こっているのを目撃しました。
「現場に仕事を任せよ!:社外取締役増加の弊害」『北羽新報』2022年6月5日号
文・小川孔輔(作家、法政大学名誉教授)
数日前(5月19日)に、「スシロー高砂店の品切れに見る、商人魂の欠如」というブログ記事を書きました。読者は、つぎのような情景を思い浮かべてください。
最寄駅の京成高砂駅構内に、回転ずしのスシローがオープンしました。コロナで持ち帰りのニーズが生まれたので、テイクアウト専門店を開いてみたわけです。金町線の乗換通路の角で店は好立地です。寿司セット(税込み630円~)以外に、太巻き寿司が290円、鉄火巻が390円でした。品揃えは限定されますが、けっこうリーズナブルな価格です。
課題は売上予測です。キッチンがある通常のスシローでは、客はスマホで注文して寿司を持ち帰ります。高砂店は構内店ですから、キッチンの場所がありません。工場からセット商品を早朝に店に配送する方式です。新業態が初めて出店するので、販売個数の予測データがないのです。しかし、わたしが店長ならば、初日は廃棄ロスにかまわず、思い切った品揃えにします。売れ残るくらい商品を準備しないと、販売予測データが集められないからです。
そんなことを思いながら、夕方5時に高砂店に出かけました。かみさんと娘には、チラシを写メって送りました。「4時半までにほしい商品を注文してください!開店初日に限り、わたしから皆さんにプレゼントにします」。
店に着くと、レジの前に10人ほどの客が並んでいます。冷蔵陳列ケースを見ると、寿司セットは完売していました。仕方がないので、まぐろ3貫セットや太巻きなどを買って帰りました。閉店時刻の8時まで、商品すべてが完売しそうな勢いです。
4人の従業員は、レジ前に所在なさげに立っています。閉店まで3時間を残しています。近くには、スシローの奥戸店があります。「奥戸店に追加発注をかけてみたら?」と従業員さんたちに助言してみました。どなたも動く気配がありません。みな顔色が良くないのです。
スシローは、むかしは「あきんどスシロー」というブランドでした。会社が現場に権限移譲をできていないようです。店長が商人魂を失っています。現場が動ければ、売り上げをさらに10万円~20万円は増やすことができたはずです。残念至極な風景でした。
ちなみに、スシローの運営会社(F&LC)の役員をネットでチェックしてみました。社長は電通経由でスカウトされた人物。そして、驚くべき事実がわかりました。取締役9人のうち、社長以外は役員全員が社外取締役でした。知り合いの経営者(元カルビーの松本会長)や著名なプロ経営者(元ネスレの高岡社長)が取締役のリストに入っていました。
上場企業で不祥事が頻発しています。経産省は社外取締役の比率を高めるよう指導しています。ところが、これには副作用もあります。商売の経験がない社外の役員が多数を占めるようになると、物事がトップダウンで決まるピラミッド型組織になるからです。
高砂店はテスト店ですから。うまくいくかどうかはわかりません。現場が責任をとれない場合はどうするか?上層部に指令を仰ぐことになります。失敗してもチャレンジを許容する社風であれば、現場は思い切って注文数を増やすことができたと思います。また、信頼できる横のつながりがあれば、奥戸店に助けを求めることができたはずです。
サービス業は現場で成り立っています。現場に仕事を任せられないようでは、組織が動かないのです。