(その71)「20年後の日本農業、世界一の米輸出国に」『北羽新報』2022年7月6日号

 通説は、時代の変わり目には大きく外れてしまうものです。わが国の農業の国際競争力と食糧自給率に関する通説も、その例の一つです。大胆な予言をしてみました。20年後に、日本は世界に冠たるコメの輸出国になるという託宣です。地元新聞への寄稿で、予言の根拠を議論してみました。

 
「20年後の日本農業、世界一の米輸出国に」『北羽新報』2022年7月6日号
 文・小川孔輔(作家、法政大学名誉教授)

 

 学部教員時代に、「マーケティング論」という科目を教えていました。受講生は200人~300人でした。最も多いときで、年間850人の学生を受け持ったこともあります。いまでは考えられないマスプロ授業です。
 30年間続いた学部での授業を終えるにあたって、「日本とマーケティングの未来」という講義を行いました。20年後に、日本の社会やビジネスの世界で何が起こっているのか?やや無謀とも思える未来預言をしました。2004年1月14日のことでした。
 講義のテーマは、<2025年の大予測>としました。内容を紹介すると、①米国型マーケティング(マック、コーク、ディズニー)の終わり、②消費は和に向かう(日本発の食とアーチストの登場)、③日本はアジアの観光立国になる、④日本農業の復権などでした。
 背景にあった要因は、①資源の奪い合い(エネルギーコストの上昇)、②高齢化社会の到来(ボランティア組織中心の社会変化)、③大量消費・大量生産の時代が終わり(地産地消)でした。当時の予言の精度は、今の時点で3勝1敗くらいかと自己評価しています。

 

 大胆な予言を述べましたが、秋田県の農業を考えるときに、この予測には重要な示唆が含まれています。それは、②消費の形は「和」に向かうと、④日本農業の復権の2点です。どういうことかというと、エネルギーコストの上昇で、農産物(小麦やトウモロコシなど)や加工品(肉類や魚介類)の輸入が、この先は難しくなると考えられるからです。
 今年になって第2次大戦後初めて、小麦の価格が米の価格を上回ったからです。実際にも、パンやケーキなどの原料になる小麦価格の上昇で、食品加工メーカーは米粉を用いた加工品の商品開発を進めています。現在は輸入品主体の大豆やジャガイモも事情は同じです。
 その結果、長期低迷していた国内産米に復活の兆しがあるのです。これから起こるだろうコメの買取価格改定の恩恵は、わが秋田県や新潟県のような米作地帯に及びます。米菓のようなお菓子類も、有望な地域農産品です。海外でも小麦やトウモロコシの価格が上昇しています。そのことから、小麦の代替品としてのコメに期待がかかっています。

 

 今年の大予言のトップに、そんなわけで、「日本が20年以内に、世界最大のコメ輸出国になる」を挙げてみました。それでは、日本のどの地域が米輸出の中心県になる可能性があるでしょうか?答えは、北海道なのです。品種改良と温暖化の影響で、北海道は稲作の適地に変わりました。そして広大な土地面積を持っています。ナナツボシやユメピリカなど、北海道のブランド米も美味しくなりました。消費者からの人気も高いのです。
 秋田や新潟の米作農家と出荷団体は、50年に一度のチャンスを逃さないよう、いまから準備を進める必要があります。もうひとつ興味深いのは、和菓子の復権です。これまでうるち米ばかりが注目を浴びてきました。しかし、和菓子の原料となる糯米(もちごめ)に対する引き合いがこの先は増えそうだからです。
 2020年現在、日本の食糧自給率(カロリーベース)は37%です(生産金額では76%。わたしは20年後の自給率を60%と予測しています。この予測値は、いまの世界情勢をみると、単なる期待値に終わることはないだろうと思っています。