わたし自身や身内の病気(アレルギー)について、これまで連載で取り上げて来なかったテーマです。実はいまでも、アトピー由来の病気に苦しんでいます。皮膚炎や花粉症です。とくに、わたしのアトピー体質が娘や孫に遺伝して、彼女たちが小麦アレルギーになってしまいました。
今回は、アレルギーの不都合な真実と、食に対する世の中の動きについて書いてみることにしました。メーカーも小売業も、アトピーやグルテンフリー食については、近年は対応が進んできています。
(その104)「アトピー体質とグルテンフリー食」『北羽新報』2025年5月26日号
文・小川孔輔(法政大学名誉教授、作家)
子供の頃、重度のアトピー性皮膚炎に悩まされていました。皮膚のバリア機能が低下して、かゆみを伴う湿疹が繰り返して出る病気です。わたしの場合は、カラダ全体とりわけ頭皮と背中がかゆくなるので、夜遅くまで寝付けないことがしばしばでした。
同級生の父親が皮膚科医でした。小学校低学年から病院通いが始まります。塗り薬で一時的にかゆみは止まりますが、アトピー体質が根本的な原因です。完治ができないまま大人になりました。ところが、二十歳を過ぎた辺りから、ひどい湿疹に悩まされることがなくなりました。結婚してヘルシーな食事を摂れるようになり、症状が大幅に緩和しました。ただし、アレルギー体質でしたから、結婚後すぐに今度は花粉症を発症しました。
ところで、結婚して3人の子供に恵まれました。アトピー性皮膚炎は、確率的に母親からより父親から子供に遺伝すると言われています。わたしの場合は、この遺伝の法則が見事に当てはまります。次男は、わたしと同じアトピー性の皮膚炎です。長男には、花粉症が遺伝しました。春先になると、長男とわたしは、鼻水が出てくしゃみがとまりません。
長女は、アトピーも花粉アレルギーもなく生まれてきました。ところが、40歳の手前で突然、小麦アレルギーを発症しました。グルテン(小麦粉に含まれる蛋白質の一種)を摂取できない体質になってしまったのです。パンやパスタなどを食べると、グルテンがショック症状(セリアック病など)を引き起こします。そのため、小麦粉などを含んでいないグルテンフリーの食材、例えば米粉や豆粉などを探し回ることになります。
娘が小麦アレルギーを発症した当初、一般の小売店では、グルテンフリーの食材を求めることが困難でした。小麦アレルギーの有病率は、成人で約0.2%。長女は全くの少数派です。グルテンフーの食材は、ネット通販か健康食品店などで探すしかありません。スーパーなどで娘と一緒に買物をすると、彼女は食品のパッケージに書いてある成分表を食い入るように見つめています。アレルギーを引き起こす成分が含まれていないかどうかをチェックするためです。彼女にとって、食材を購入することが命に係わる選択だからです。
状況が変わり始めたのは、コロナの少し前からでした。加工食品メーカーのミツカンが、グルテンフリーの「ZENB」というブランドを発売しました(2020年)。グルテンを含んでいないパスタやヌードル、カレー粉などが品揃えされています。
小売業界では、売上トップのライフ・コーポレーションが、「ビオラル」という新業態を開発しました(2016年)。オーガニック食品など自然食のラインナップが中心ですが、グルテンフリーの食材なども重要なアイテムです。順調に店を増やして、ビオラルは現在9店舗ですが、全国のライフ300店舗に、PB商品のビオラルがコーナー展開されています。
最近では、イオンなど大手スーパーでも、グルテンフリーの商品がふつうに置いてあります。長女は、苦労してグルテンフリーの食材を探し求めることがなくなりました。肌感覚ですが、娘の世代あたりから、グルテンフリー食を必要とする若者が増えている気がします。遺伝体質だけが原因ではないように思います。自然環境の変化や現代人の食生活、ストレスフルな社会環境もなども、アレルギー体質を促進しているように見えます。
コメント