(その53)「ふるさと納税:返礼品の価値」『北羽新報』(2020年12月31日号)

 年の瀬に合わせて、連載53回目は「ふるさと納税」の話にしました。この制度には批判的だったのですが、今年はそこは忘れることにしました。現職のままならば多額の税金を納めることができます。稼いでいるうち、生まれ故郷の能代市に納税することを考えました。2020年度は、そこそこの金額を寄付できました。

 

「ふるさと納税:返礼品の価値」『北羽新報』2020年12月31日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)

 

 ふるさと納税の制度には、どちらかというと批判的な立場をとってきました。生まれた故郷に納税することには賛成です。しかし、制度を利用している人たちを見ていると、納税先を変更する主たる目的が返礼品を受け取ること、むしろそれだけが目的になっているように見えました。自分の気持ちとしては、生まれた場所でもない市町村に納税することには、大いなる違和感を覚えていました。
 わたしのように、この制度に疑問を感じている人たちは、明確な反対理由を持っていました。合理的で簡単な理屈です。ふるさと納税の制度が始まったために、いま現在、ごみ処理や子どもの教育など、種々の住民サービスを受けている自治体から、納税先(寄付先)の自治体に税金が移転されることに納得がいかなかったからです。
 とはいえ、制度が発足してからは、できるだけ早くお世話になった能代市に納税(寄付)をしたいと思っていました。父親と母親は50年以上にずっと、亡くなるまで能代市にお世話になっていました。いつか生まれ故郷に恩返しがしたいと思いながら、10年以上の時が過ぎていました。その10年間は、子供たちや社会人の大学院生たちが嬉々として返礼品を受け取っているのを複雑な思いで観察していました。

 

 今年の11月に、ふるさと納税に対する個人的な立場を変更することにしました。というのは、この制度はもともと、2006年に総務大臣として初入閣を果たした菅義偉現総理のアイデアだったことを知ったからです。秋田県出身の総理大臣が、ふるさとに対する恩返しとして思い立った制度だったのなら、政治的に現在、厳しい立場にある菅さんを制度面から応援しようと考えたからでした。

 発足当初から、ふるさと納税の制度には、基本的な欠陥があることはわかっています。ですから、申し込むときに、自分なりの基準を設けることにしました。第一に、納税額の全額が東京都(葛飾区)から流出しないようにすることです。ふるさと納税が利用できる最大の限度額ではなく、その半額以下をふるさと納税に充てることが最初の条件です。また、能代市から受けとる返礼品についても、何らかの形でかつて自分がお世話になった懐かしい商品であることを二番目の条件にしました。
 わたしが、ふるさと納税のサイトを見て、具体的に申し込んだ商品を列挙してみます。①きりたんぽ鍋のセット、②秋田杉のまな板、③あきたこまち、④セキトのしんこ、その他。

 
 いま東京都葛飾区で一緒に暮らしている子供や孫たちも、きりたんぽ鍋は大好きです。秋田杉のまな板からは、子供のころに遊んだ街中の製材所から漂ってくる杉のおがくずの匂いがします。せきとのしんこは、わたしにとっては「ソウルフード」です。帰省のたびに購入していました。あきたこまちは、いまでも秋の収穫時期になると親戚の農家から送られてきます。
 ちなみに、発足から10年で、ふるさと納税の年間寄付総額は、5000億円を超えているそうです。日本国の年間予算が、2021年度は3年連続で100兆円を超えるようです。ふるさと納税の寄付額は決して小さな額ではありませんが、それでも国の予算額に比べれば、地方自治体が受け取る金額としてはそれほど大きな額でもありません。