先月のコラムで、退職を機に蔵書を整理したいと書いた。その後、隣室の山崎先生が、中国の日本語学科にビジネス書を寄贈する運動をしていることを知った。まとめて約2000冊の本を処分したいので、山崎さんの運動に寄付することにした。行き先は、中国の四川大学になる。
「嫁入り先は、四川大学」『北羽新報』2021年12月26日号
(連載:その65) 文・小川孔輔(法政大学大学院・教授)
先月号では、「蔵書の嫁入り」というコラムを書かせていただきました。大学を退職するにあたって、自宅と研究室の2500冊の本の「嫁入り先」をご紹介くださいというお願いでした。その後、秋田県の図書館にも連絡をとってみたのですが、一括して引き取ってくださる方が現れないまま、秋田県に蔵書を寄贈する交渉は断念しました。
ところが、今月の初めになって引き取り先が現れました。送り先は中国の大学です。わたしの本は、四川大学に寄贈することになりました。日本語学科の学生が対象です。
本紙に原稿を送った直後(11月24日)、法政大学の同僚、山崎先生から短い電子メールが届きました。タイトルは「ご協力のお願い」でした。差出人の山﨑泰明(やすあき)先生は、今春着任したばかりの新任教員です。
* * *
教授会の皆様 今春からお世話になっています山崎です。もし、可能であるならば、先生方のご協力を頂戴したいと思い、メールをしました。
従来から、中国の大学との懸け橋づくりで、いろいろな活動を行なっています。その一つが、「日本の経営学分野を中心としました社会科学系の書籍」を中国の大学に寄贈しています。既に、大連外国語大学、吉林外国語大学、信陽師範大学の3大学に各々2000冊の寄贈を終えました。次回は、四川大学を予定しています。どの大学にも外国語学部日本語学科があり、非常に喜んでいただいています。
暮れも近づき、大掃除などの際に廃棄したり、邪魔になる書籍もあろうかと思います。その際、私の研究室前(6階29号室)に置いていただくか、ひと声かけていただければ、指定の場所に私が取りにまいります。是非、宜しくお願い申し上げます。山崎泰明
* * *
山崎先生の研究室は、わたしの30号室の隣です。コロナの真っただ中の採用でした。着任後も、教授会はオンライン開催が続いていました。マスク顔の画面越しでは、新任の先生の顔を覚えることができませんでした。とはいえ、運よく本の嫁入り先が見つかりました。
廊下ですれ違った時に、山崎先生に声をかけて、本の引き渡しについて相談しました。秋田の図書館との交渉でネックになったのは、全部の本をまとめて引き取ってもらえなかったことと、古い本の引き取りが難しかったからでした。2つの障害が、中国の大学が引き受け先になったことで解決しました。山崎先生からの返信は、つぎのようになっていました。
「先生から寄贈していただく書籍につきまして、先生の研究室ものは、ご指示いただければ私が取りに行きます。2000年以前の刊行物であっても大丈夫です。また、ご自宅の書籍につきましても、この活動を一緒にやっている仲間と受け取りにまいります。是非、宜しくお願い申し上げます」(山崎先生)。
わたしの蔵書が、四川大学の外国学部日本語学科の学生さんたちに役立ってくれることになりました。いつかの日か、コロナが明けたらですが、本場の四川料理を食べに、四川大学を訪問してみたいと思います。自身の蔵書と再会を果たすためです。