(連載 その41)「スイーツ開発の舞台裏:ローソンの場合」『北羽新報』(2019年12月24日号)

 クリスマスイブの昨日、クリスマスに因んだコラムを地元紙に書いてみました。題して、「スイーツ開発の舞台裏」。毎年のように、法政大学のわがゼミ生に、ローソンさんからクリスマスケーキが届きます。今年は、食べる前に今年発売になったスイーツで人気投票をしてみました。さて、どれが人気だったのか?

 
「スイーツ開発の舞台裏:ローソンの場合」『北羽新報』2019年12月24日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)   V2:20191224
 
 コンビニエンスストアの「ローソン」(東京都、竹増貞信社長)から、クリスマスシーズンになると、小川ゼミの学生にケーキが届きます。4年ほど前から、学生たちが同社の商品開発のお手伝いをしているからです。クリスマスのケーキはそのご褒美です。昨日(12月18日)の夕方、演習の授業中にケーキが教室に届きました。
 今年は、いつもの大きなクリスマスケーキではなく、個包装された小さなケーキが28人分。保冷バッグを開けると、学生数+2個(わたしの分)、かわいいカップケーキなどが30個入っていました。
 7種類で一種類が4~6個です。ローソンは「プレミアムロールケーキ」を発売してから、毎年のようにスイーツで大ヒットを飛ばしています。今年は、「バスチー」が大ブレークしました。今年3月の発売以来3000万個が売れています。
  
 さて、7種類のケーキを前にして、学生たちはどれを食べるかに悩みます。市ヶ谷の法政大学までケーキを届けてくれた卒業生の白井明子さん(プロモーション部シニアマネージャー)が、うまい解決法を提案してくれました。「皆さんで人気投票をしてみてはいかがですか?」(白井さん)。つぎの7種類から投票で選んで、数が足りなくなったケーキはじゃんけんで占有者を決めることにしました。
 1. どらもっち(あんこ&ホイップ)180円
 2. バスチー(バスク風チーズケーキ)215円
 3. ホボクリム(ほぼほぼクリームのシュー)200円
 4. とろけるクリームの苺ショート315円
 5. くちどけティラミス270円
 6. ダブルモンブラン(和栗&洋栗)315円
 7. ダブルチョコレート(ダーク&ミルク)295円
 男子の一番人気は、モンブラン(5票)。女子のトップは、バスチー(4票)でした。ティラミスは男女ともに人気で、5票(男2、女3)を獲得しました。参考までに、社内の販売データによると、リピート率が多いケーキは、3(ボボクリム)、1(どらもっち)、4(苺ショート)、2(バスチー)、7(ダブルチョコ)、5(ティラミス)、6(モンブラン)の順番だそうです。学生たちの人気とは逆になっているのは、値段の効果かもしれません。
  
 ところで、ローソンがスイーツでヒット飛ばしているのには理由があります。その一つが開発チームを女性が担当するようになったからです。食品メーカーと同様、コンビニでも商品開発部隊の主要メンバーは男性が占めていました。女性客の多い「ナチュラルローソン」(赤い看板)で開発に携わっていた女性マネージャーを、通常のローソン(青い看板のローソン)に異動させ、全国発売向けの商品を担当してもらうよう開発組織を変えました。
 彼女たちが、女性目線で開発したのが、先ほどの4~7までの「カップケーキ」です。ケーキを食べるときの悩みは、手が汚れてしまうことです。カップ入りのケーキであれば、スプーンで食べ終わったら、そのままカップごとゴミ箱に捨てられます。
 二番目に、商品開発で大切なことは、自社に商品を提供してくれるベンダー(納入業者)と上手に連携プレイをすることです。リピート率の高かった「どらもっち」(2位人気)は、格別においしい生クリームを使用しています。その生クリームを使ったチルドケーキなどを製造販売している縁の下の力持ちが、「㈱モンテール」(本社:埼玉県八潮市)です。
 モンテールは、直営店で自社のチルドデザートを販売しています。それ以外に、ローソンにはベンダーとしてOEM(相手先ブランド)で商品を供給しています。ローソンとデザート事業で提携することで、モンテールは業績を大きく伸ばしています。両社がデザートケーキ市場を拡大する良きパートナーとなったことで、わたしたちも恩恵を受けているというわけです。ちなみに、人気一位の「ホボクリム」は、大手の山崎製パンの委託商品です。