関東地方では、1都3県に緊急事態宣言が発令された。一方で、全体的に人流が減っているとも思えない。オリンピックを観戦する場を提供するため、禁止薬剤のアルコールを出す店がかなり存在しているらしい。実態はよくわからないが、1年半近くに続いたコロナ禍で、飲食店の商売が思わしくないことは間違いない。
今回のコラムでは、やや微妙なテーマを取り上げることにした。「飲食店の苦境」という見出しの原稿である。いい悪いは別にして、わたしは掟破りをする飲食店さんの気持ちがわからないでもない。自分が飲食店を経営しているならば絶対にやらないだろうが、アルコールを提供したり、8時閉店の決まりを守らない店主のことだ。
資金的に余裕があるチェーン店では、協力金が店の赤字を補填していることが、決算書を見れば明らかである。しかし、生活が懸かっている独立店について、書類の作成が面倒だったり、そもそも協力金の支給が遅れたりしている。同情を禁じ得ない。というわけで、以下のようなコラムを『北羽新報』の今月号に寄稿することにした。
他意はない。正直にいまの自分の気持ちを文章にしたものである。本日現在(7月29日)、掲載日が未定である。八代編集長からは、「明日か明後日の掲載が予定されています」と連絡があった。明日からは関西出張になるので、掲載日が確定した段階で本ブログを公開することになる。
公開は、秘書の内藤に依頼して、わたしは短い2泊3日の夏旅に出ることにする。
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「飲食店の苦境」『北羽新報』2021年8月1日号(連載:その60) V1:20210720
新型コロナウイルスの感染拡大で商売がもっともきびしいのが、アルコールを提供している飲食店です。お酒が入ってしまうと、会話が弾みすぎて飛沫が飛んでしまうからです。飲食店に責任があるわけではありません。悪いのはマナーを守れない客の方なのですが、誤解を恐れずに言ってしまうと、コロナウイルスの感染源として飲食店がスケープゴートにされている感じがあります。
実際のデータ(東京都モニタリング調査、7月6日~12日)を見てみると、コロナ新規陽性者の半分以上(53.4%)が「家庭」での感染で占められています。2番目が「職場や学校」(20.1%)で、「飲食店」での感染は3番目以下(7.9%)になっています。
明確な証拠があるにもかかわらず、街の居酒屋やレストランが悪者扱いにされているのには理由があります、家庭や職場での感染を本気で止めようとすると、社会活動を停止しなければならないからです。海外ではロックダウンが発令できるので、飲食店だけが自粛対象になっているわけではありません。
日本の場合は、外出禁止令が出せないので、緊急事態宣言や蔓延防止措置でお茶を濁しているわけです。その結果、政府や自治体が人的な接触を止める努力をしているという姿勢を示すことが必要になります。そのあおりで、飲食店が営業時間の短縮や休業要請に従わされていると筆者は考えています。飲食店は、コロナ禍の最大の被害者です。
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ところで、筆者が住んでいる東京下町では、江戸時代や明治初期に創業した老舗がいまでも商売を続けています。しかし、いまコロナ禍で、長く商売を続けてきた飲食店が次々と店を閉じています。江戸の食文化は、老舗の料亭などが何代にもわたり守ってきたものです。また、明治期に始まる銀座界隈の洋食店の閉店も目立ちます。
最近の出来事でもっとも衝撃を受けたのは、寛永年間に創業した川魚料理の店「川甚」(葛飾区柴又)が230年の歴史に終止符を打ったことです。夏目漱石の「彼岸過迄」に登場する他、映画「男はつらいよ」では、寅さん(渥美清)の妹、さくら(倍賞千恵子)が結婚披露宴を挙げたのが川甚でした。
川甚の閉店は、NHKニュースでも放映されました。番組のテロップは、「柴又の老舗料亭「川甚」 コロナの影響で閉店」となっていました。コロナで団体客が激減して、商売が立ちいかなくなったことが原因でした。常連さんたちが別れを惜しむ中、年末に閉店となりましたが、店主は、コロナ後に再出発を期しているようです。
昨年の暮れから、個人的に飲食店の支援を始めています。わたしたちにできることは、営業時間や利用人数(2人以内、90分)に制約があるとしても、飲食店を利用しつづけることです。ノンアルコールのビールを飲んで、とにかく店に足を運ぶようにしていま す。
この欄でも紹介したことがある秋田料理の店「男鹿半島本店」(門前仲町)へは、昨年暮れから2度訪問しています。また、自宅と神戸の長男宅へは、きりたんぽ鍋のセットを宅配してもらいました。そのほか、ご近所さんの3店(お寿司屋さん、鉄板焼き屋さん、イタリアンバル)は、家族や友人に声をかけて、巡回しながら週一回程度は利用を続けています。売上を計上することだけが、閉店を阻止する唯一の手段だからです。