(その10) 「価値観は所有から共用へ:シェアガーデン@八街」『北羽新報』2017年5月24日号

 昨春、仲間7人と千葉県八街市で有機野菜の農場をはじめた。今月号のコラムでは、八街農場の事例を中心に、わたしのまわりではじまっている「シェアビジネス」の事例を紹介してみた。どのビジネスも、顧客と直接的に接触することで、サービスの流通経路を短縮することに特徴がある。

 

 

「価値観は所有から共用へ:シェアガーデン@八街」『北羽新報』2017年5月24日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院)

 

 わたしたち世代が子供のころは、いつかお金持ちになって高額なものを所有できることが夢でした。
 古いネタになってしまいますが、その典型的な例が、「いつかはクラウン」というトヨタ自動車のコマーシャルでした。初めてのボーナスを頭金にして中古のカローラを買った親父(おやじ)さんが、最後には役員に出世して最高級車のクラウンに乗るというテレビCMです。マーケティングの用語では、「上級移行(トレードアップ)」と呼びます。
 メーカーが仕掛けたスマートな販売促進策だったのですが、わたしは、「これって双六(すごろく)みたい!」と思ったものでした。日本人全員の価値観が、それほどステレオタイプ(紋切型)だったのです。しかし、いまの学生たちの行動を見ていると、高額品を所有することをそれほど大切だとは思っていないようです。

 

 車も家も家電も、カバンやファッション衣料品にいたるまで、高価な商品を身に着けることが成功の証だった時代は終わったようです。若い人たちにとって、モノは買うのではなく、共同で利用することが当たり前のようです。たとえば、「シェアハウス」(複数で家を共用する)、「シェアオフィス」(事務所の空間を共有する)、「カーシェアリング」(車を時間単位で利用する)、「シェアード・ブルワリー」(ビールの醸造設備を貸し出す)。

 知り合いの若者(天沼聰社長、37歳)が起業した会社に、「エアークロゼット」というベンチャー企業があります。二年前に、若い女性を相手に洋服をレンタルするサービスを開始しました。会員になると月額6800円で3組の洋服が届きます。セレクトしてくれるのはプロのスタイリストで、一定期間利用した後は宅配便で返却するだけ。クリーニング代もかかりません。
 ひと昔前ならば、「他人が着た洋服を再利用するなんて」と思ったものです。それが、好みの洋服が手軽に着られて、クローセットが不要になるのです。その分、部屋が広く使えるので、サービス開始からすでに11万人の会員が獲得できています。

 

 そんな世の中のトレンドを見て、わたしたちの仲間7人(うち4人が1951年生まれのうさぎ年)が、千葉県八街(やちまた)市で始めたのが、「シェアガーデン」という一風変わった農場です。「市民農園」の事業者版ですが、貸し出しの仕組みがちょっとちがいます。市民に農園を貸し出すのではなく、委託先から提供してもらって種子を専門の作業員が、契約した区画で栽培するのです。つまり農場のオペレーター(作業員)の役割を引き受けるわけです。
 委託販売先は、出資者でもあるオーガニックレストランや自然系の食品スーパーです。どちらも都内に数店舗を展開している中堅企業です。農産物の一部は、オーガニック系の宅配会社でも売られています。従来の栽培契約では、品種の価格と数量を契約して作っていました。シェアガーデンでは、農場の区画を種子ごとに貸し出すのです。種子は委託元のレストランや食品スーパーが持ち込むか、栽培用の種苗を指定することになります。
 シャアガーデンは、現在1.5ヘクタールの休耕地を借りて運営されています。本格的な出荷は、今年の夏から始まります。農家の高齢化が進んで、日本中にはすさまじいほどの休耕田地が増えています。八街近辺の農家からは、放置されている農地物件がつぎつぎに持ち込まれています。今年は農地が1ヘクタール広がりました。将来的には、シェアガーデンを全国展開したいと思っています。昭和26年生まれの「7人の侍(さむらい)」の人生最後の挑戦になります。