先週の最高裁の判決で、またしても「夫婦別姓」は認められなかった。「夫婦同姓」を求めることは、憲法上なんの瑕疵もないという判決だった。世界で唯一、日本は夫婦同姓を要求する国になっている。今月のコラムでは、結婚の際に3番目の姓を選ぶことができるフィンランドの事例を紹介してみた。
「夫婦別姓、夫婦同姓」
『北羽新報』2021年6月29日号(連載:その59) V1:20210621
わが国の民法では、結婚後の夫婦別姓が認められていません。夫婦どちらかの苗字を選択することが義務づけられています。例外は、日本人が外国人と結婚した場合で、こちらは「選択的夫婦別姓」が制度的に認められています。国際結婚した後には、夫婦同姓でも夫婦別姓でも、あるいはドイツのように混合姓(両姓の併記)を選択してもよいのです。考えてみればこれは逆差別的ではないでしょうか。妙な例外規定に感じてしまいます。
ところで、日本人同士が結婚すると、現状では約96%の夫婦が男性側の姓を名乗るのだそうです。わたしの周りでは、結婚後に女性側の姓を引き継いでいる男性は、元同僚の大学教授ただひとりです。これまで疑問にも思わなかった夫婦別姓の制度ですが、思わぬことがきっかけで、女子が結婚後に使用する苗字に興味を持つようになりました。
つい先日のことです。普段からLINEでやり取りをしている親しい女性から、「先生、どうしてわたしの(結婚後の)新しい姓を知っているのですか?」というメールをいただきました。実はその瞬間まで、公式的には彼女が結婚したことを知らされていなかったのです。
パソコンの仕事メールでは、会社名(大手化学メーカー)の後に、旧姓の「亀田美代子(仮)様へ」で電子メールを書き始めています。一方で、彼女とのプライベートなやり取りには、LINE(メッセージアプリ)を使用しています。短いチャット(おしゃべり)がほとんどですから、いちいち苗字(亀田)などは書きません。
ときどきですが、「美代子さん、こんにちは」など、ご本人の名前でメッセージを書き始めることがあります。あるとき、たまたま遊び心からでしたが、本人から知らされていなかった新しい姓で、「浅野さん、ご機嫌はいかがですか?」とおどけたメッセージを送ってみました。友人の女性は、仕事では一貫して旧姓を使っているらしく、わたしが新しい苗字でメールを送ったのに驚いたのでした。
種明かしをすると、LINEの画面には、その人が登録している苗字と名前(浅野+美代子)が表示されるのです。亀田さんは、わたしのようにニックネーム(わんすけ先生)ではなく、結婚後の新姓を登録していました。自分の画面にはその情報は現れないので、わたしのメッセージに驚いたというわけです。ほとんどの場合、周囲のキャリアの女性は、旧姓で仕事を続けています。亀田さんは、仕事とプライベートを使い分けていたのでした。
夫婦別姓だと、家族の絆が失われるとか、離婚したみたいで子供がかわいそうだとか、政治的に右寄りの保守層はいろいろな理屈を述べます。しかし、実態をいえば、結婚後でも仕事で旧姓をそのまま使用している女子がほとんどです。むしろ新姓に切り換える女性はいまや少数派ではないかと思います。これだけ離婚する夫婦が増えている時代ですから、夫婦別姓には再婚しても姓を何度も戻さなくてよいメリットもあります。
最後に、夫婦別姓に関しては、フィンランドで興味深い制度があることを最近になって知りました。1980年ごろまでは、フィンランドでも夫婦同姓か両姓併記がふつうでした。しかし、女性の社会的な地位が向上して働き方が変わりはじめた30年ほど前から、法律制度が変わって夫婦別姓が選択できるようになりました。
フィンランドの場合でさらにおもしろいのは、結婚と同時に、夫婦どちらかの姓ではない第三の新しい姓が選択できるようになったことです。さすが30歳代の女性首相を選ぶお国柄です。