(その81)「知られざる花の効用」『北羽新報』2023年5月22日号

 最近の学術研究で、植物は人間の言葉を理解しているようだと言われています。また、モーツアルトの音楽を流すと花がきれいに咲いたり、植物の成長が促進されるとの実験結果もあります。今回は、思いもかけない花や植物の効用について紹介します。

 

「知られざる花の効用」『北羽新報』2023年5月22日号
 文・小川孔輔(法政大学名誉教授)

 

 わたしたちが、切り花や鉢物を購入するのは、色彩やデザインで生活空間を彩るためだと言われています。洞窟で暮らしていたネアンデルタール人が、近親者の死を悼むため、野の花を手向けていたことが発掘調査で明らかになっています。わたしたち現代人(ホモサピエンス)も、隣人に対して敬愛の情を表現するため、花束や鉢物を贈るようになりました。

 約10年前から、米国人の研究者の実験や調査から、「身近に花があることで、人間の心理にプラスの効果がもたらされること」が知られるようになりました。最近になって、花の効用については、新しい研究成果が学会誌などで報告されています。

 

 今回は、花の心理的な効用(人を健康にしたり、幸福な気分にする)について、4つの事例を紹介してみたいと思います。花や植物には、以下のような効果・効能があることが知られています。

(1)カンサス大学の研究
 入院患者の病室に切り花が飾ってあると、手術後の痛みが緩和される。また、病後の回復プロセスでは、心理的なストレスが弱まることが知られています。
(2)南カリフォルニア大学の研究
 花や植物が部屋に飾ってあると、植物が水分を放散するので湿度が高まります。その結果として、人間は感染症などの病気に罹りにくくにくくなると言われています。
(3)ハーバード大学の研究
 花や植物に触れることで、自宅やオフィスに花や植物があることで、人々は前向きな気分になれることが実験でわかっています。実験で、朝の目覚めのタイミングで花を見るようにすると幸福な気分になり、他人に対して友好的なムードになるようです。

 

 最後の事例は、ちょっとおもしろい実験によるものです。

(4)環境デザイン心理学者の研究
 植物には、「仕事の生産性を高める効果」があるようです。その理屈がおもしろいのです。
 現代人のほとんどは都市部で暮らしています。自然界から離れて暮らすようになると、わたしたちは季節の移り変わりに気がつきにくくなります。ところが、自宅や仕事場に花が飾ってあると、植物が成長する様子をそれとなく見ることになります。つまり身近な場所に花があると、自然界で起こっている「時間の経過」を感知する能力が醸成されるのだそうです。
 植物という生命体の変化で時の移り変わりを知ることにより、人間は自らの目標が達成されるタイミングやキャリアのチェンジを意識するようになるのです。

 したがって、自宅やオフィスに飾る花は、決して「造花」であってはならないのです。生いている花が時間とともに変化し、最後は枯れてしまうことが大切なのです。近年の諸物価高騰で、切り花や鉢物の値段も高くなっています。そうであっても、トイレやキッチンに造花を飾ってはいけなのです。
 小さな蕾が大きく膨らんで、最後は枯れることに意味があるのです。造花は全く形を変えません。色彩も変化しません。造花では、生命の息吹を感じることがかなわないのです。