先月(6月)24日から27日まで、約15年振りで韓国を訪問しました。韓国の花産業を視察するためです。わたし自身は、2020年にコロナ禍に入ってから、5年間は海外に行くことがありませんでした。久々の海外で、しかも日本からもっとも近い韓国で驚きの体験をしてきました。
この記事は、花の業界団体の機関誌(JFMAニュース)に寄稿するつもりでした。そちらは別の記事を予定していたので、こちらの原稿は、秋田の地元新聞『北羽新報』の連載記事に掲載することになりました。
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「韓国の切り花消費事情」『北羽新報』(2025年7月28日)
文・小川孔輔(法政大学名誉教授、作家)
先月の下旬、会長を務めている「日本フローラルマーケティング協会」の海外視察研修ツアーの団長として、10年振りで韓国を訪問してきました。研修場所は、ソウル市とその近郊の花店やガーデンセンター、卸売市場など。短期間でしたが、韓国の花文化と消費事情について、興味深い知識を得ることができました。
研修プログラムを企画してくれたのは、花の専門輸入商社「エーワールド」の社長で、韓国生まれの林めぐみさん。東京芸大声楽科を卒業した、元ソプラノ歌手です。林さんには、研修先で韓国語の通訳もしていただきました。羽田から金浦空港までは2時間20分。格安航空券なら往復3万円でソウルまで飛んでいくことができます。韓国は、韓流ドラマとK-POP、そしてコスメの国です。首都ソウル市は、日本人の女性に人気の観光スポットです。
ところで、韓国の人口は5121万人。日本の人口が1億2380万人ですから、人口は日本の半分以下です。驚いたのは、韓国の一人当たり切り花消費額が年間1500円で、日本の半分以下だったことです。これに人口を掛けると、韓国の切り花消費金額は年間768億円となります。
ちなみに、日本の切り花消費額は年間6412億円で、韓国の約8倍です。日韓でこれほどの大きな差があるのは、人口の違いだけでは説明がつきません。農水省の担当官に尋ねたところ、「韓国には墓前に花を供える習慣がないから」とのことでした。最近までは、韓国の家庭では自宅に花を飾る習慣がなかったようです。
国内生産が盛んではないので、多くを海外(コロンビア、中国、ベトナムなど)からの輸入に依存しています。国産は268億円で、輸入が112億円。輸入比率が約30%です。それでも、ここ10年で韓国の花市場は急速に成長を始めました。このトレンドを牽引しているのは、SNS(インスタグラム)やEC(電子商取引)の登場です。若い人たちを中心に、花を贈る習慣がブームになっているようです。このフラワービジネスを支えているのは、ECやサブスク(定期購入)の会社です。30代から40代前半で若い新興企業の創業者たちは、花の輸入商社やフラワーカフェなども同時に経営していることでした。
韓国では、花の物流システムが独特です。ソウル市内の花の卸市場は、高速バスターミナルに隣接しています。地方の花店には、路線バスで花が直送される仕組みになっています。前夜3時までに受注を締め切った花が、早朝にバスターミナルでバス(荷物室)に積み込まれます。国土が狭いこともあって、遠いところでもソウル市内から3時間で地方のターミナルに荷物が到着します。花屋さんが、バスターミナルまで荷物を取りに行くのだそうです。
驚いたことがありました。宅配便の配送料金が、日本円で260円(/段ボール)と格安だったことです。輸送距離が短いことと、定期便なので積載効率が良いからでしょう。日本の花業界が頭を抱えている「物流2024年問題」(花が地方に運べない)に韓国は無縁でした。
ただし、韓国の花産業にも悩みはあります。日本以上に深刻なのは、生産現場でのコスト増と人手不足です。また、基本的に、スーパーでは花が販売されていません。一般人はネットで花を購入するか、専門店を利用することになります。また、わたしは花のデザインがやや人工的だと感じました。世界の潮流は、“野の花のような”ナチュラルなテイストに向かっています。韓国のフラワーデザイナーたちが、どのように折り合いをつけていくのか?そこのところが、この国の課題のように思いました。
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