地元紙『北羽新報』への寄稿が、今月で50回目を迎えました。本日掲載になる記念すべきコラムでは、菅首相の誕生を祝うことにしました。ご存知のように、菅義偉首相は秋田県湯沢市出身で、法政大学法学部の卒業生です。菅さんの首相就任を喜び、大学の校友会は大騒ぎをしています。一方で、田中優子総長をはじめとして、対照的なのは大学執行部です。実にクールな対応をしています。
このことは、先日の『AERA』(朝日新聞社)の記事でも紹介されていました。法政大学のHP(https://www.hosei.ac.jp/info/article-20200916135329/)では、菅さんの首相就任祝いが、わずか70文字でした。お祝いの言葉はなくて、ひとこと「頑張って下さい」で終わっていました。少しばかり礼を失しているように感じます。対照的なのが校友会のHP(https://www.hoseinet.or.jp/info/20200916/)でした。こちらは手放しで喜んでいます。
法政大学の現総長と理事会・執行部は、どちらかと言えば「左寄り」の政治的な立場をとっています。安倍前総理の官房長官を8年弱も務めた菅さんは、いまや思想や理念が真逆な自民党総裁です。しかし、母校の卒業生が首相に指名されたことを、政治的な立場を超えて祝ってあげてもよろしいのではと思います。
なんとなく人間的なおおらかさの欠如と、了見の狭さが透けてみます。大学が発するメッセージとして、対応のまずさを指摘する向きもあると思います。とても残念な印象を受けました。
とはいえば、秋田県出身の現役法政大学教員としては、手放しで菅総理の誕生を喜んでいます。というわけで、仲間内でプライベート祝賀会を門前仲町の秋田料理店「男鹿半島」で開くことにしました。
今回のコラムでは、そのことも紹介させていただきました。開催日は、三密を避けるために秘密にしてあります。
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「奇跡の成功確率:菅義偉首相の誕生」『北羽新報』2020年9月22日号
文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授) V2:20200921(最終原稿)
今月号で、本連載が記念すべき50回目を迎えました。2016年に依頼をいただき、毎月末には欠かさずコラムを書かせていただいています。本日の記念すべきテーマは、秋田県出身者ではじめて首相に就任した菅義偉総理の誕生についてです。
内閣総理大臣就任(9月16日)の前から、主として法政大学の関係者(教職員、卒業生)からお祝いの電話やメールをいただいていました。安倍総理の後継者を選ぶ総裁選で、対立候補の石破氏や岸田氏に比べ、議員票でも地方票でも菅さんが圧倒していることがメディアで報じられていたからでした。わたしが秋田県出身の教員だということが、法政大学関係者の間ではよく知られていたからだとも思います。ありがたいことです。
菅首相が法政大学を卒業した後、わたしは法政大学に研究助手として採用されました。1976年のことです。講師から助教授、教授に就任して、今年で法政大教員歴が45年になります。長く教鞭をとってきたので、卒業生より「法政愛」が強いかもしれません。いちばんの自慢は、法政大学教授として最長不倒年数(35年間)を誇っていることです。
さて、菅総理のことに話を戻します。周囲の秋田県人と法政卒業生は、菅総理就任を手放しで喜んでいます。そこで座興として、秋田県出身者で同時に法政大学卒業生から総理が誕生する確率を計算してみました。単純計算では、1万分の1(以下)の確率です。計算の根拠は、次のようになります。
法政大学の入学者(約1万人、2018年)が、2000年に誕生した子供の数(約117万人)に占める割合は約0.85%(=1万人/117万人)。一方で、秋田県の日本全体に占める人口シェアは、約0.76%(=96.6万人/1億2650万人)です。単純に掛け算すると、0.0065%になります。つまり秋田県出身で法政大学卒業生が首相になれる可能性は、1万分の1以下というわけです(実際には何回か挑戦のチャンスがあるので、首相就任の確率はその数倍になります)。
この天文学的な確率が肌感覚でわかるのか、秋田には何のゆかりもない、法政大学の卒業生でもない友人たちから、「小川先生と、秋田出身で法政大卒の首相就任を祝いたいのですが」と会食のお誘いをいただいています。不思議な感覚なのですが、とにかくお祝いしていただくことになるので、ありがたくお誘いを受けています。
もっとも最近お誘いいただいている方は、学習院大学卒で新潟県出身。そこに同席する予定のもうひとりが、早稲田大学卒で東京都出身です。新潟県は日本海側にあって、むかしから「米どころ」で「美人の産地」である点が共通です。早稲田大学は、東京六大学の一つで首相をたくさん輩出しています。「たまには、法政大学に総理大臣の席をひとつくらい譲ってやってもいい」くらいの感覚なのかもしれません。
ところで、勝手連で「菅義偉首相の就任を祝う会」の宴席を設ける場所がまた素敵です。新潟県出身者は、予想通りに秋田料理の店を指定してきました。以前、本コラムで紹介したことがある秋田料理の店「男鹿半島」(江東区門前仲町)です。実施の日は秘密にしておきます。きりたんぽ料理には早いですが、その日の夕方は、能代市出身の店主の堀騰(ほり のぼる)さんが、最高の腕を振るって新潟県人と東京都民に秋田料理を振る舞ってくださるはずです。