(その84)「今日のランチは、秋田料理3点セット」『北羽新報』2013年8月28日号

 連載84回は、秋田に帰省した時の料理のことを書きました。この夏旅で、わたしのメニュー帖に、「鮎のコンフィ」と「じゅんさいの酢の物」が新たに加わりました。どちらも調理の難易度が高いメニューです。孫の穂高が、丸ごとの鮎をぺろりと平らげたのには驚きました。秋田は、食材が豊富な地域です。

 

「今日のランチは、秋田料理3点セット」 『北羽新報』2013年8月28日号

 文・小川孔輔(法政大学名誉教授、作家)

 

 「秋田に生まれてよかった」と思うことがあります。秋田県には、「きりたんぽ鍋」や「ハタハタの飯ずし」などのように、美味しい郷土料理がたくさんあるからです。しかも、いずれの食材もそれほど高価でないことが特徴です。
 ところが、そんな秋田料理の中で、例外的に高額な食材が一つだけあります。春の大型連休から8月にかけて、田んぼや自然の沼で採れる「じゅんさい」です。京都の料亭で食べると、じゅんさいの酢の物が、高額なコース料理にちょっとだけついてきます。都会のスーパーにも旬のときには置いてありますが、けっこうなお値段がします。
 じゅんさいの一番贅沢な食べ方は、「じゅんさい鍋」です。食材と出汁は、きりたんぽ鍋とほぼ同じです。比内地鶏を使った出汁に能代市の河戸川で採れる白神ネギを入れて、最後にぬめりが残ったこりこりのじゅんさいを投入します。鍋の中で煮込むのではなく、軽く湯がく感じです。最後に、じゅんさいを掬い取ります。
 じゅんさい鍋は、山本地域の家庭料理が始まりのようです。わたしは、冬場にきりたんぽ鍋を食べさせてくれる秋田料理の店「男鹿半島」(東京都江東区)で、夏場に食べるようになりました。店主の堀騰(のぼる)さんが料理してくれるじゅんさい鍋は天下一品です。

 

 秋田料理を食べ慣れているわたしですが、このほど、帰省したときに仕入れた食材で料理をすることがありました。じゅんさいは、じゅんさい鍋を作るときの要領で10秒ほど軽く湯がいて「酢の物」にしました。じゅんさいに軽く熱湯を注いで約10秒。じゅんさいの滑り(ぬめり)が完全には落ちないよう、氷水に浸してからザルにあけます。
 レシピ通りに、じゅんさいに味醂とお酢にお醤油を混ぜ、すりおろしたショウガを溶いて、薄くスライスしたキュウリを加えます。実際には、じゅんさいの下にキュウリを敷く感じになります。
 ほぼ同じ時期に、「阿仁川あゆっこ温泉」(北秋田市)から天然の鮎を冷蔵便で送ってもらいました。ふだんは料理に無縁なわたしですが、秋田から鮎を調達したので、今回は「鮎のコンフィ」(100℃の低温のオリーブオイルで3~5時間調理するイタリア料理)に挑戦してみました。これがなかなか美味しいと、家族の間では評判でした。

 

 ちなみに、じゅんさいの酢の物と鮎のコンフィを調理している間に、かみさんが稲庭うどんを作ってくれました。稲庭うどんは、ふるさと納税で入手したものです。うどんのぬめりを取り除いてザルから掬い上げると、コシがあるつるつるの稲庭うどんが完成です。
 薬味には、2種類のネギ(刻んだ白ネギと小ネギ)とすりおろしたショウガが投入してありました。うどんのつけ汁には、カツオと昆布の出汁を使用していたようです。じゅんさいの酢の物と一緒に、美味しく稲庭うどんをいただきました。

 この日は、秋田の食材のおかげで、超が付くほど贅沢なランチになりました。秋田料理3点セットの出来上がりです。この先、自宅で秋田料理を調理することが習慣になりそうです。