【巻頭言】「“花より団子”の時代がこの先も続くのか?」『JFMAニュース』2025年4月20日号

 エンゲル係数は、家計消費支出に占める食料費の割合である。日本のエンゲル係数は、先進国の中でもダントツの1位で28.3%(2024年)。対極にあるのが米国で、OECD加盟国中で最低の16.5%(2022年)である。日本と食文化が似ていると言われるフランス(24.5%)やイタリア(25.7%)など、ラテン文化圏ではエンゲル係数が高くなる傾向がある(2022年)。

 日本の場合はエンゲル係数が30%に迫る勢いだが、時系列で見てみると、2000年から2014年の間は22%前後で安定していた。ところが、金融緩和が続いた最後の10年間で、エンゲル係数が23.6%(2015年)から28.3%(2024年)に、割合で20.0%上昇している。エンゲル係数が高くなった理由について、①日本社会の高齢化、②女性の社会進出、③食品の価格高騰の3点を、経済学者たちは指摘している。
 ところで、エンゲル係数とは真逆の動きを示している指標がある。一世帯当たりの切り花の消費金額である。総務省の『家計調査年報』によると、(2人以上世帯で)一世帯当たりの年間の切り花への支出金額は、2015年の9,616円から2024年には7,684円に落ち込んでいる。この10年間で、20.1%の大幅な減少である。

 10年間の切り花消費金額の減少幅(-20.1%)と、同じ期間のエンゲル係数の上昇幅(+20.0%)とは、増減の違いはあるがほぼ同程度である。「花離れ」と「エンゲル係数の上昇(食品に対する支出増)」が同時に起こっていることは、単なる偶然の出来事なのだろうか?

 ヒントは、エンゲル係数の上昇を説明する3つの要因に含まれているように思う。
 ①高齢化の影響は、これまで仏花の消費を支えてきた高齢者の生産年齢人口からの離脱(逆所得効果)と、世帯を構成する人数の減少に及んでいる(標準世帯のサイズと切り花の消費金額には正の相関があることが知られている)。

 ②女性の社会進出によって、時短ニーズ対応の商品に対する需要が増えている。外食の回数が増え、総菜など中食の購入が増えたのは、女性が家事に投入する時間の減少と関連している。対照的に、女性の社会進出で切り花の購入額は減る傾向にある。この20年間で切り花の消費が最も減少したのは、F2層(女性35歳~49歳)と呼ばれるセグメントである。

 ③直近の5年間で、食料品も切り花も30%から50%ほど価格が上昇している。農産品の価格高騰は、急激な円高と気候変動が影響している。食品も切り花も価格の上昇幅は同程度であったが、影響がより深刻なのは「花より団子」の方である。農産品全体の価格上昇は、切り花のような不要不急の支出を抑える方向に働くからである。

 最後に、わたしから読者に質問である。エンゲル係数がさらに上昇して、60年前の35%に限りなく近づくと思うかどうか? 切り花の消費は、豊かさの指標でもある。国別の一人当たりGDPと、切り花の消費額には高い相関があることが知られている。

 2010年からの15年間で、日本は先進国の中でGDPがほとんど増加しなかった唯一の国が日本である。日本の相対的な貧困化が、切り花の消費を増やすことができなかった根本的な要因なのかもしれない。欧米の先進国では、同じ期間において切り花の消費額が増加している。そして、コロナ禍が収束した後でも、切り花の消費は減少していない。日本ではその逆の現象が起こっている。わが国では、この先も花より団子の時代が続くのだろうか?

 

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