【JFMAニュース・巻頭言】「ヴァーチャル・ウォーター再び」(2015年9月号)

 昨年の元旦に、個人ブログで6つの予言をした。記事タイトルは、「小川先生の大予言(2):10年後の2024年を占ってみた」である。10年前(2004年)にも、「大予言(1)」を発表しているが、「マクドナルドの経営危機」などを含んだ6つの予言の的中率は80%を超えていた(5勝1敗)。唯一の外れは、「中国の政治経済的な崩壊」だが、これとても予想の視野を20年後とすれば、最終的には「当っていた!」となる可能性がないこともない。


さて、「2024年の大予言」は、つぎの6つだった。①農に関する二つの危機:GMO問題と水飢饉、②わが国の食料の自給率は上がる、③自家発電の仕組みが普及する:原発は「フェードアウト」へ、④「3F(スリーエフ)生活産業」の未来は明るい、⑤上手な「未来型の提携」がビジネスの成功を決める、⑥中・韓は成長を終えて国際競争力を失う。一年半しか経過していないが、③~⑥については、どうやら当たりそうな予兆が見られる。そして、最初のふたつの予言(①と②)は、内容的に深い関係をもっている。

 世界的に水飢饉(水不足)がさらに進めば、海外からの農産物の輸入が減少して、日本の食料自給率が自然に高まる。その因果関係が長期的には成り立つからである。そのロジックをやや詳しく説明してみたい。

 わたしたち日本人は、台風や水害の被害に日常的に晒されているため、地球規模の水飢饉については実感が薄い。しかし、後に具体的なデータを示すが、米国本土と中国内陸部の水不足はかなり危機的な状況にある。その他の南半球の地域(アフリカ、オセアニア、南アメリカ大陸)でも水不足は深刻である。そうなると、現在、農産物を輸出している国(米国、オーストラリア、ブラジルなど)が、10年後にも農業生産で優位に立っているとは限らない。逆にいま台風など風水害で悩まされている日本や東南アジア諸国は、降水量が潤沢である。だから、水の豊富さによって立派に農業生産国として立っていることもありうるのである。農業の生産性が労働生産性や生産技術によってではなく、「水投入の生産性」によって決まることになる可能性が考えられる。日本でも一時期話題になった「ヴァーチャル・ウォーター」(仮想水)が、農業生産の主テーマになる時代がふたたび訪れようとしているのである。

 ちなみに、「仮想水」(かそうすい、virtual water)とは、農産物・畜産物の生産に要した水の量を、農産物・畜産物の輸出入に伴って売買されていると捉えたものである。農産物の取引を水の売買ととらえる考え方である。たとえば、牛丼1杯に必要な水は約2トンが必要だと言われている。

 ここに、水不足についての具体的なデータがある。園芸関連のニュース配信サイト(HortBiz:2015年9月15日号)によると、米国カリフォルニア州では、深刻な水不足によって、2015年だけでも約2100億円の損失が生まれている(“Drought costing California $1.84 bn this year”)。水不足で耕作できない農地の機会損失や地下水のくみ上げのために必要な井戸の掘削コストなどである。カリフォルニア州が受けた損失はそれ以外に、約1万人の失業者(前年比で約2500人の増加)なども含まれている。東海岸でも水不足は深刻で、地下の水脈を100年単位にみると、米国大陸の地下に眠っている水資源が枯渇して、イリノイ州やミネソタ州などの穀倉地帯で、数十年後には小麦や大豆が生産できなくなると言われている。

 いま花の生産国として優位に立っているのは、中南米やアフリカ、東南アジアの国である。手元に具体的なデータはないが、これらの国でも水不足と環境汚染が大きな問題となっている。この先10年くらいで、農産物の輸出入において水問題が課題になることはまちがいない。カーボンフットプリント(CO2の排出量)とヴァーチャル・ウォーター(仮想水)が、花や野菜、穀物の生産においてテーマとして再浮上することになるだろう。