「セリ下げ方式」『JFMAニュース』(2018年4月20日号)

 個人ブログで、アクセス数が急に増える過去記事がいくつかある。そのうちの一つが、「市場せりの秘密」という表題で、『Big Tomorrow』の第15回(2009年10月号)に書いた記事である。


今でも、なぜこの記事のアクセスが急増するのかはわからないが、世間の関心を浴びているらしいことは事実である。花業界人にとって当たり前の風景かもしれないが、一般人にとっては興味深い現象だと思われているらしい。今回は、そのエッセンスを紹介する。この記事は、次のような導入で始まっている。私(小川)が雑誌記者(インタビュア)の質問に答える形式で記事は進行する。

リード文:買参人の声が威勢よく飛び交う卸市場。野菜や魚の場合は、せりにかけられたモノの値段が上がっていくシーンが思い浮かぶ。ところが、花だけはその反対。値段が下がっていくという。

記者:「普通は値段が上がるのに、なぜ“花”だけは値段が下がる方式なのですか?」

小川:「せりには“せり上げ”と“せり下げ”という2種類があり、花はせり下げで入札価格が決まります。」

記者:「せり下げとは聞きなれないが?」

小川:「通常のせりは、安い価格から始まってどんどん上がっていく。最後まで脱落しなかった人が落札するチキンレース方式です(せり上げという)。一方、せり下げは高い価格からスタートし、下がっていきます。買参人は欲しい価格で機械のボタンを押し、一番早く押した人が入札する、という仕組みです。」

 なぜせり下げなのか?オランダの生花市場で始まった「ダッチオークション(クロック式せり下げ方式)」は、多品種の花を新鮮なうちにさばくために考案された。
 ヨーロッパは、世界の花消費量の約1/3を占めているが、そこに供給される花の多くは、一旦オランダの花き卸市場(当時は2カ所)に集められ、せりで卸値が決まってからヨーロッパ全土に出荷される。
 大量の花を新鮮なうちに出荷するには、せりが短時間で終わることが望ましい。せり上げだと時間がかかるので、短時間でセリが終わる方式をオランダ人が考案した。又、セリ下げ方式が普及したもう一つの理由は、取引の公平性である。
 せり上げはせり人の裁量が大きく、懇意の買参人に意図的に入札させることも可能だった。今は、情報取引が一般的になっており、人為的な操作はしにくくなったが、それでも、セリ下げ方式は談合防止にひと役買っていたわけである。
 思い起こせば、日本の花き市場も同様で、以前は、日本各地に約300カ所の小さな市場が存在していたが、1990年代から統合が進み、1市場あたりの取引量が急増した。
 取引量の増加に対応するため、日本でもオランダに倣って短時間で終わる機械式せり下げ方式が採用された。しかし、花の取引形態が大きく変化した今、せり下げ方式を採用していることは理にかなっているのだろうか?確かにセリの単位(箱)は小ロットではあるが、今やセリで取引される数量は全体の2割程度である。