定期的にチェックしているネットニュースに、HortiBizというオランダのメルマガがある。
最近号(2016年10月17日)に、“Seasonal workers turn down jobs in the UK”(季節労働者がイギリスに出稼ぎに来なくなる)という記事(Farmers Weeklyからの転載)が掲載されていた。
例えば、これまでブルガリアからイギリスに働きに来ていた季節労働者が、6月に英国民がEU離脱に投票したことで今年度は70%減少したと報告されている。直接的な原因は、ポンドの対ドル相場が4か月で20%近く下落してしまったからである。英国以外のEU諸国で仕事を探す方が、ブルガリア人に金銭的な実入りが多くなった。そして、もうひとつの理由は心理的なものである。Brixitは、「英国民は外国人を歓迎していない!」というメッセージを強烈に移民や季節労働者に伝えている。
皮肉なもので、EU離脱でもっとも困っているのが、英国内で野菜・果物を栽培している園芸農家である。また、近年は「温暖化対策でなるべく農産物を運ばないようにしよう」という理念から、国内産を推奨してきた畜肉業界や食品加工業者も経営的には困難を極めている。先日のJFMAツアー(6月)では、ロンドン市内のテスコやアズダなどの食品スーパーを視察してきた。その時も、ユニオンジャック(英国旗)が農産物のスリーブに大々的に印刷されているのを確認してきた。花や野菜で国産を推進しようとしているのに、また、消費者はその活動に賛同しているのに、国産の野菜や花を栽培するのに必要な労働力が確保できない事態に陥っているのである。
EU離脱が決定的になれば、農産物の国内生産コストはさらに上昇するだろう。英国民が望んだように、移民と季節労働者の受け入れに制限がかけられるからだ。外国人の労働者が不足して労賃が上がり、さらにはポンドの下落で資材コストが上昇することは確実である。
イギリスが直面している労働問題は、決して他人事ではない。日本でも、都市部の小売・サービス業は、外国人労働者なしには今や商売が成り立たない。都市近郊の食品加工場や物流センターでも、アジアからの研修生が現場を支えている。農村地帯を見ても同じで、一時の中国人に代わって、ベトナムやインドネシア、フィリピンからの研修生が農場で働いている。手元に公式のデータはないが、少なく見積もっても、わが国の農業生産の20%は研修生という名の外国人労働者が担っている。
海外産の切り花が、ここ数年間の円安傾向で輸入が難しくなっている。国産がそれに代替するかと言えば、国内の生産事情もそれほど単純ではない。生産の次代を担う若者は、商売が堅調であれば後継するだろうが、それも長期的な見通しあってのことである。また、地方でもパートタイマーの確保が困難を極めている。
英国と同様に、もしもの話だが、「若者の雇用を奪っているのが外国人研修生だ」という保守的な発言が幅を利かせようものなら、世論はすぐにそれに反応してしまう危険性がある。英国から季節労働者が去ったように、ある日突然農業研修生が日本の畑や温室から消えてしまう。
そのとき、誰が農業現場を担えるのか?英国はこの先、ITや科学技術を駆使した農業改革を実行しないと、国内の農業生産を継続できなくなるだろう。あるいは、高い国産品を買わざるを得ない。
日本の場合はさらに、アジアの国が経済的に豊かになるという「新興国成長リスク」を抱えている。日本の農業は、その時どのような対応をすべきなのだろうか?