「この業態は伸びそうだ:バロックジャパンの観葉植物専門店(SHEL’TTER GREEN and DELI)」という記事を、個人のブログに書かせていただいた(https://www.kosuke-ogawa.com/?eid=5798#sequel)。以下のコラムは、記事に加筆して再編集したものである。
「観葉植物専門店は業態として成立するか?」『JFMAニュース』2022年7月20日号
文・小川孔輔(JFMA会長、法政大学名誉教授)
去年10月、「(株)バロックジャパンリミテッド」(以下、バロック)が観葉植物の専門店を始めたのを新聞で知り、少し前に同社に転職していた元大学院生(岩佐一生さん、経営企画副本部長)を通じて、店舗開発部ディレクターの大芦信彦さんにインタビューを申し込んだ。バロックは、アズール(AZUR)、マウジー(MOUSSY)など、ギャル系のアパレル小売りチェーンである。多角化の一環として、観葉植物専門店(住)とデリカテッセン(食)の複合店開発に取り組んでいる。
いずれアパレル企業が花や植物に関心を持ち、植物を販売するだろうと予想していた。実際に、コロナ禍の2020年春に、ユニクロが切り花の販売を始めた。都心の旗艦店(銀座マロニエ店)で販売は好調である。コロナを契機に、普段使いの花や植物が日本人の日常生活スタイルに溶け込んできている。バロックが観葉植物の専門店を始めたのも、似たような動機からだろうと思っていた。
開発担当の大芦部長が、女子社員たちに、「コロナでよく買うようになった商品は?」と尋ねたところ、中食と花や植物が上がった。戦略企画部門が事業多角化の候補分野を探していて、これまで手掛けていないカテゴリーが食と住だった。住関連では、植物とインテリアが候補になった。そこで、郊外型ショッピングモールの「アリオ川口」に、植物専門店の一号店として「シェルターGreen and Deli」を出店することになった。
川口市は人口が57万人で、隣接する足立区が60万人。アリオ川口は120万人商圏のど真ん中に立地している。若い消費者(20代~40代)だけでなく、シニアのご夫婦も買い物に来ていた。売り場には、休憩用のソファーが置いてある。良質な家具らしく、座りここ地もよかった。緑に囲まれた空間で、買い物前にリラックスできるのはよいものだと思った。
植物の売上を推測してみた。アリオ川口全体の売上は、年商200億程度(標準タイプ500坪の食品スーパーの10倍)。客単価を2000円とすると、逆算して年間来館者は約1000万人。一日当たり3万人になる。グリーン部門(SHEL’TTER GREEN)のレジ客数を来館者の0.1%として平日で30人程度だろう。店内の様子や植物の品ぞろえを見ると、潜在的な需要はこの2~3倍はありそうだ。1年後にはビジネスとして成り立つように思う。
観葉植物専門店が郊外型ショッピングモールで充分に成立する理由の一つは、アパレル企業は接客サービスに向いているからである。接客のプロが植物を上手に売りこむことはむずかしくなさそうである。アパレル企業のもうひとつの強みは、店舗デザインと雰囲気づくりである。センスのよい企画担当者がたくさんいるのだから、これまで植物を扱ってきたHCやガーデンセンターのように、グリーンの売り場を「モノ置き場」にはしないだろう。
アパレル企業は、従来とは異質の業態開発ができそうである。もしかすると、私たちが海外で見たきたDIY業態とは異なる新しい業態を、日本のアパレル企業が開拓してくれるかもしれない。大いに期待できる。