9月の末から10月上旬にかけて、JFMAの海外視察ツアーで、東南アジアの二か国を訪問した。ベトナムは2年ぶり、マレーシアは9年ぶりだった。 マレーシアのキャメロンハイランドでは、3ヶ所の農園を視察した。すべてスプレイマム栽培の生産者である。9年前にも同じ二か所を訪問していた。そのうちのひとつであるモーガンファームは驚くほどの進化を遂げていた。2005年に予測した通りに、日本向けのマムの栽培本数が倍に伸びていた(3600万本)。
驚いたことが2つあった。1つ目は、自社農場と契約農場から持ち込んだ花を自社のパッキング施設内で「事前検疫」をしていたことである。荷受けルームで、抜き取り検査をして、アザミウマやハモグリバエが見つかったら即時に廃棄する。裁断してコンポストエリアに回されるが、それでも廃棄率は2~3%程度である。
2つ目は、荷受け作業所から空港まで、完全なコールドチェーンが完成していた。荷受けされた花は30分で4℃に冷却。パッキングエリアは13~15℃、保管庫は11℃に温度が維持されていた。採花翌日の午後4時にはクアラルンプール空港に到着。夜間のフライトで日本まで運ばれる。3日目の午前中に日本でセリにかけられる。
パッキングと輸送の加工ロジスティックス費用は、かつては1本あたり20~25円だった。それは変わってはいないだろうが、この間の変化はコールドチェーンが完成したことである。日本で日保ち保証が普及していけば、国内産は海外産に完全に太刀打ちできなくなる。コスト以前の問題である。花の鮮度に関する常識が変わる気配があるのだ。
ベトナムで圧倒的に印象に残ったのは、ダラットの「ハスファーム」だった。ハスファームは、ダラット周辺に大規模な農場を三ヶ所(標高もよって栽培品目が異なる)を持っている。全部で約100ヘクタール。キク、カーネーション、ユリ、トルコキキョウ、カランコエなど、多品目を生産している。ハスファーム以外にも、エリア全体で栽培面積が4000ヘクタールと言われている。
ダラットハスファームは、1994年に設立。アグリビナ(香港資本)とハッサン(インドネシア資本)の合弁企業である。この会社の特徴は、小売と加工までを手掛ける「垂直統合型」の企業として成長していることだ。直営で花店6店を経営している以外に、スーパーマーケット39ヵ所へ花束などを納品している。ダラットハスファームの特徴は、マレーシアと同じでコールドチェーンが完備していることである。とくに日本へは海上輸送を使っている。4℃に冷やして、東京まで6日間かかる。ただし、その分だけ輸送コストは安い。物日対応や日持ち保証販売には、むしろ海上輸送が向いている。なお、イオンが昨年、ホーチミン市に出店しているが、切り花はハスファームが供給している。日本国内の日持ち保証販売も、このままだと国産ではなく、ベトナム産から始まりそうだ。
現状では、マレーシアのほうが、品質は安定している。ただし、平地で栽培適地が残されているベトナムからの安定供給がなされれば、そちらが伸びそうだ。将来的な供給量は、2~3億本(現状1億本)。日本の量販店のキク、カーネーション、トルコキキョウ、ユリは、ベトナムからの供給になるだろう。東南アジア産の切り花で日本国内の流通が変わってしまう。大転換の予感がする。