【JFMAニュース・巻頭言】「異業種コラボレーションを成功させるための条件」(2015年3月号)

 今週のフラワービジネス講座(上級編)では、「異業種コラボレーション」というテーマで講義することになった。はじめての内容だったこともあり、話がやや哲学的だったかもしれない。講義概要は、個人ブログ(https://www.kosuke-ogawa.com/)にアップしてある。


講義レジュメ(3月17日掲載)を読んだだけでは、おそらく微妙なニュアンスは伝わらないだろう。そこで、この巻頭言では、異なる業種に属する組織同士が、共同事業やプロジェクトで一緒に仕事を進めるときに必要な成功要件をわかりやすく解説してみたい。個人の場合は、他人と共同で作業をするときの仕事の進め方についての「心構え」と翻訳していただければよいだろう。

 異業種コラボレーションを成功させるためのヒントは、京セラの創業者である稲盛和夫氏の「仕事観」がとても参考になる。100万部を超えるベストセラーとなった『生き方:人間として一番大切なこと』(サンマーク出版、2004年)は、人間の生き方についての指南書である。稲盛哲学のエッセンスは、「仕事の結果方程式」(小川の命名)で簡潔に述べられている。稲盛さんが第二創業で興したKDDI(第二電電園)の成功の後、すでに70歳を過ぎてからも、一度破たんしたJALを再生させた手腕など、経営者として確固たる実績を残しているだけに、稲盛語録には大いに説得力がある。

 稲盛さんによると、人生・仕事の結果は、3つの要因によって決まる。すなわち、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」である。しかもここで大切なことは、人生や仕事の結果は、能力と熱意と考え方の「掛け算」で決まるということである。どんなにそのひとの能力が高くても、どんなに熱心に仕事に取り組んでも、仕事に対する考え方(=方向性)がまちがっていると、最終的には思うような結果に結びつかない。だから、3つの中で成功にとっていちばん重要な要素は「考え方」だということになる。

 稲盛さんの「仕事の方程式」は、ひとりの人間について人生や仕事の結果を説明したものである。そこで、これを異業種の組織が連携するときの成果を決める方程式に置き替えてみよう。わたしの翻案(アイデア)は、異業種コラボレーションの成果方程式:「組織連携の成果=戦略性×共振性×補完性」となる。やや詳しく説明してみる。
 稲盛さんの場合の「考え方」に対応しているのが、「戦略性」である。これはさらに二つの要素から成り立っている。(1)共同で作業をするときの仕事の進め方(=運営プロセス)と、(2)共通の目標設定(戦略目標の共通性)のふたつに分解できる。つぎに、二番目の「共振性」は、異なる組織が一緒に仕事に取り組むときに、互いに共通の「熱意」を感じることができるかどうかである。別の表現では、感情的に共振できるかどうか。熱意の「共感性」と呼んでもいいだろう。

 三番目の「補完性」は、互いの「組織能力」に補完関係があるかどうかである。たとえば、花の業界でいえば、酒類販売チェーンの「カクヤス」が花店チェーンの「プレジュール」を買収して、ワインと花の店「コルク」を銀座に開店している。食卓を飾るアイテムとして、花とワインには共通性がある。カクヤスのワインとプレジュールの花束は補完性があることは明らかだろう。
 この仕事の方程式は、花業界の共同プロモーションである「フラワーバレンタイン」の成功をうまく説明しているように思える。業界内で競争関係にあった企業同士が共通の目標を設定して(戦略性)、新しい物日を創ることで花の需要拡大に取り組もうとした(共振性)。共同プロモーションを支えたのは、異なる専門性を持った業界人たちだった(補完性)。フラワーバレンタインの盛り上がりは、その成果である。