「オンライン講義の功罪」『JFMAニュース』(2020年9月20日号)

 JFMA主催のフラワービジネス講座は、今年度から、オンライン受講を実施している。今月(9月)からは、後期の授業が始まっている。前期に引き続いて、全講義を受講する生徒の数が2桁をクリアしている。スポットでの受講者を含めると、常時20人近くがビジネス講座を熱心に受講してくれている。うれしいことに、通年の受講者数はほぼ倍増である。

 

 昨年度までの対面授業形式に比べて、受講者が増えているのは、オンラインで講座への参加がしやすくなった点を挙げることができる。中でも大きいと思われるのは、オンラインによって「地理的な障壁」が克服できたことである。これまでしばしば指摘されていたことだが、地方在住の花屋さんや生産者さんにとっては、東京に出てくるための交通費と宿泊費、そして移動時間の制約が大きかったと思われる。

 対面からオンライン講義に切り替わったことで、上京するための費用と時間が節約できるようになった。時間と場所の制約が取れ払われたことで、講義を聴くことができるようになった恩恵は大きい。わたしも講師の一人である。話す側からしてみれば、できるだけたくさんの方に講義を聴いてもらいたい。話す場合に、一桁の受講生が二けたになることは大いに励みにもなる。講座を主催する側からすれば、事業としても採算が良くなったことで、講義の準備に張り合いが出てくる。好循環が生まれている。

 受講を促進している2番目の理由は、講義を受けるための「環境からの自由度」が高まったことがあげられる。移動の制約がなくなったことも含まれるのだが、オンライン受講には対面にない有利な点がある。会議への参加では、服装や環境をより自由に設定できることである。何人かの受講生からは、職場での作業時間の前後に受講を組み入れることができるようになったという意見を聞いている。

 具体的な例を挙げてみる。今年度、前後期の講座をすべて受講してくれている生徒の例である。この女性は、埼玉県に住んで仕事をしている。1歳児を抱えているので、対面授業であれば受講は不可能である。浦和から市ヶ谷までの移動に約1時間がかかる。講義と移動の時間に赤ちゃんを誰かが世話してあげなければならない。しかし、オンライン授業なので移動はない。赤ちゃんが泣いても、ビデオ画面を消して音をミュートに設定すればよい。それでも、講師の画面と声を聴くことはできる。

 ただし、現状のオンライン講義の仕組みは、良いところばかりではない。オンラインには、ふたつの弱点がある。ひとつは、講師(司会者)がかなり上手にコントロールしても、一般的にオンライン会議の議論は盛り上がりに欠ける傾向がある。この半年間、ズームで大学院の講義を担当してきた。また、種々のオンライン会議で司会をしてきた経験からの推測だが、オンラインで場が活性化しない原因は、いっぺんに複数の人が声を上げることができないことにある。対面ならば可能な「隣りに座っている人」との自由な会話がむずかしい。

 ふたつめは、講義に参加している人を一覧(一瞥)できる環境がないことである。一応、教室に参加している人の顔は、PCの画面に映し出されてはいる。しかし、講義が行われている「会場全体」の雰囲気がつかめない。サービスマーケティングで言われる「設備環境(舞台設定)」がオンラインでは貧弱なため、議論が興奮を呼ばないのかもしれない。ただし、これは将来的には、技術的に解決が可能な課題なのかもしれない。

 いずれにしても、フラワービジネス講座でもオンライン受講は始まったばかりである。改善、工夫の余地はまだまだりそうだ。現在の受講者だけではなく、ニュースの読者からもご意見を寄せていただきたく思う。