コロナ禍が花の消費のすそ野を広げたことは間違いないだろう。自宅にいる時間が増えたことで、花やグリーンを身近に感じるようになった。フラワービジネスの専門家を自任しているわたしも、3年間で植物に接する時間がずいぶんと増えたような気がする。
それを後押ししたのが、日比谷花壇やブルーミー(現社名、ユーザーライク)などの花のサブスクリプション・サービスである。サブスクには、ブルーミーのような「宅配サービス型」と、日比谷花壇が提供している「店舗ピックアップ型」がある。自宅のポストに届く宅配型の場合は、一回に3~5本、プリパッケージされた小さな花束が届く。
2年ほど前のことである。ある日、かみさんがサブスクの会員になった。彼女は、オランダのマスターフローリストの資格を持っている。アレンジもできるセミプロである。駅の近くには、素敵なフラワーショップもある。なのに、なぜサブスク(ブルーミー)のメンバーに登録したのか、わたしは不思議に思っていた。
理由はいくつか考えられる。手軽さ、値段、花の品質など。いまは隔週のペースで、手のひらサイズの箱が自宅の郵便受けに届くようになっている。感心するのは、投函された箱には毎回、花の種類や産地についての説明書きが添えられていることだった。
ブルーミーの武井社長に、数年前にインタビューしたことがあった。そのときに聞いたのは、会員のほとんどが花については初心者だということだった。一般の消費者でも、キク、バラ、カーネーションなど、物日やプレゼンでよく使われる花は知ってはいるだろうが、添えの草花類やグリーンなどは、そもそも名前を聞いたことがないものばかりだろう。
そのとき、花束に封入されている小さな栞が、消費者教育の役割を果たすことになる。横長のシートには、品目や産地の情報に加えて、お花の特徴や飾り方が書かれている。
一か月ほど前に受け取ったボックスに封入されていたシートの説明書きを紹介してみる。
<今週お届けの花>
・スモークグラス(福岡県)、スターチス(ケニア)、バラ(ケニア)、ガーベラ(静岡県)
・スモークグラスの花言葉は「素直」です。
・お花について:バラは花びらが柔らかく繊細なため、配送中の衝撃により傷ついてしまうことがあります。傷が気になった場合は指で優しく取り除いてからご鑑賞ください。
・飾り方のポイント:ガーベラの首が曲がっている場合は、他の花材で固定しながら、ガーベラの中心(顔)を正面に向けてあげてください。また、花瓶の縁にお花がちょこんと乗るようにカットしてみても可愛く飾ることができます。
考えてみれば、これまでの花店の商売は、買い物客が花についてある程度は知識を持っていることが前提だった。
サブスクのビジネスを始めた人たちは、異業種からの参入者である。専門家ではなかったことが幸いした。一般人が顧客になったら、商品説明から始めるのが商売の基本だろう。
フラワーマーケットのすそ野を広げることに貢献してくれたサブスクのサービスは、花の情報提供者でもあり、教育者でもあったことになる。業界人の常識に毒されず、消費者目線で仕事を進めたことが今日の繁栄につながっているようにも思う。