「小さくて丸い花器」『JFMAニュース』(2020年10月20日号)

 コロナ禍で葬儀やブライダル、パーティー用の業務需要が減って、切り花や鉢物を日常使いするホームユースが増えている。その結果、短い茎の小ぶりな花や植物に対する引き合いが強くなっている。花の規格の見直しが始まり、市場構造が変わりつつあると関係者から伝え聞いていた。

 

 短い花が売れ始めると、その派生需要としてどんなものが売れるようになるのか?そんなことを考えていたら、今週の『日経MJ』で、「まん丸花器 調和の彩、苦境の活路に全国の職人集う』(2020年10月14日号)と言う記事が目に入ってきた。そうか、短い花には、デザイン的に小さくて丸い花器が似合うかもしれない。飾り方は、一輪挿しなどで。

 MJの記事は、緊急事態宣言が発令された4月に、工芸のプロフェッショナルたちが、競って花器を作る「ワン フラワーウエア」( https://oneflowerware.jp/ )に集結したという話だった。例年5月に開催される陶磁器の展示会がなくなり、職人たちは新製品を発表する場所を失ってしまったからだ。全国8社の窯元に声をかけてコンペを企画したのは、プロダクトデザイナーの鈴木啓太さん。この企画には、唐津焼や青磁の窯元の他に、広島の木工会社も木製の花器を出品した。

 新しいタイプの花器は、全てがまん丸。SMLの3サイズで、直径が手のひらサイズのSから165ミリのLまで。5月にオンラインで販売したら、初回分は3日で完売したという。

 ネット上で小さくて丸い花瓶が売れたのは、偶然ではない。この時期は母の月で、例年より長い期間、ホームユースの花が売れていた。わたしもリモートでの授業が始まり、自宅にこもって、我が家の小さな庭や近くの花店やネット経由で、いつもより沢山の花を調達していた。そんな生活環境の変化に、楚々とした丸くて小さな花器がフィットしたのだろう。  

夏に入って買い物に出た浅草で、KONCENTというPRODUCTデザインの店を見つけた。(*KONCENTは、浅草の本店・路面店の他に、首都圏を中心に複数の百貨店やショッピングにインショップで店を構えている)何度か利用したことがあるユニークな雑貨の店で、都営浅草線の蔵前駅にあった本店が、ビルの改築で浅草に移転していた。店の正面から入って一番目立つ棚に、斬新なデザインの花器が陳列してあった。ブランド名がフラワーマン。全てまん丸で小ぶりな花器だった。

 予想通りだった。以前にJFMAの講演で日本の家庭にある花瓶の数とオランダのと比較した数字を聞いたことがある。日本が、4個か5個。オランダは21個だった。新しい花の需要は、新しい花器に対する需要を生み出す。しかも花の丈は短い。そして、元々狭い日本の住宅には小さな花瓶がフィットする。和洋どちらでもとなると、丸い花器がデザイン的にも好まれそうだ。素材もガラスや陶磁器だけでなく木製品やプラスチックなど、なんでもありだろう。新しい市場が生まれそうだ。いや、すでに生まれている。

 以下は、蛇足である。小さくて丸い花器は口が小さい。花が枯れた後に花瓶を洗うのが面倒くさい。そこで、提案である。丸い花器を洗う特別な洗剤を開発してみてはどうだろうか?ついでに、フラワーフードにも一工夫してみたらどうだろうか?そこから、新しい需要が生まれそうだ。