植物の育種で、生涯2度目の大ヒット。ご存知の方も多いと思いますが、JFMA顧問の坂嵜潮さんが育成したアジサイ(Hydrangea Runaway Bride)が、2018チェルシーフラワーショーの新品種コンテストで、最優秀賞(ゴールドメダル)に選ばれました。つい先日のこと、欧州の花き業界では最大の名誉とされる「Plant of the year 2018」を受賞したのです。
「先生、一生に一度のチャンスでした。まだ運があるみたいです」。ご本人からは、優勝が決まったとたん、携帯にメールで連絡が入りました。日本人の育種家として大変な偉業だからです。
友人として最高にうれしく思うのには、2つの理由があります。一つは、坂嵜さんが植物の新品種で大ヒット作品を飛ばしたのが、今回で二回目だということです。たった一度のホームランならば、運とか偶然の要素が左右している可能性があります。しかし、サフィニア(1989年)以来で約30年ぶりですが、今回は海外の名誉ある品評会での受賞です。
二つ目は、今回の受賞が、大きな企業組織のバックアップや潤沢な資金の裏付けがあって獲得したわけではないからです。日本人で世界的に活躍している育種家は少なくはないですが、グローバルな品評会で有利なのは、やはり大きな組織に所属している場合です。坂嵜さんも、かつてはサントリーの花事業部に所属していました。1990年代には、育種したサフィニアやミリオンベルが、何度も欧州の品評会でゴールドメダルに輝いています。しかし、世間一般では、「チームプレイの結果」「組織としての受賞」と見るかもしれません。
しかし、今回は独立の育種家としての才能に対する評価です。プラントハンターでもある坂嵜さんは、いつも真っ黒に日焼けして、「孤高の人」の雰囲気を持っています。
坂嵜さんは、サントリーを退職してから、PW(プルーブン・ウイナーズ)などと連携しながら、独立育種を続けてきました。めずらしく海外に雄飛した日本人育種家の一人なのです。そんな坂嵜さんですが、日本民族に対する誇りを強烈にもっているようです。今回の受賞が貴重なのは、「日本の遺伝資源を使って世界に認められる品種を送り出すことができたこと」だそうです。
坂嵜さんが育成したアジサイの名前と、その性質を簡単に紹介します。詳しくは、園芸コラムニストが書いているサイト「Plants in Focus: The garland Hydrangea ‘Runaway Bride’」(By Mr Plant Geek on June 7, 2018)の紹介記事を参照してください。
花の名前は、Runaway Bride(逃げた花嫁)。匍匐性のアジサイで、ふつうのアジサイの6倍も花芽がつきます。サフィニア(ペチュニア)やミリオンベル(カリブラコア)のような性質を持っています。植物の種類は違っても、育種のポイントとして目をつけるところが似通ってはいるようです。病気に強くて手間がいらないところも同じです。