2016年版の『花と野菜、環境に関する調査』(MPSジャパン)が発表になった。分析レポートでは、小川研究室のリサーチャー、青木恭子がポイントを整理してくれている。2008年に調査を開始しているから、今年度で9年分のデータが蓄積されたことになる。基本的な調査項目は変更しないようにしてきたおかげで、多くの項目は時系列で比較することが可能である。長期的な統計から、花の消費や購入のトレンドを見ることができる。
2009年のリーマンショック以来、切り花の購入率は、低下の一途をたどってきた。ところが、今年(2016年)の調査では、切り花の購入率が49.6%と前年(2015年)の46.9%と比べて2.7%だけ増加した。7年連続のダウントレンドに歯止めがかかったように見える。
ただし、購入率が最も高かった2009年(74.8%)と比べると、いまだに25.2%の減少ではある。購入率のピークから3分の2まで減少している理由は、購入理由全体の40%強を占める「自宅用」が減少したからである。自宅用に花を購入する人が、8年間で半分強にまで減少している(2008年:36.3%、2016年:20.6%)。気になるのは、日本経済が少し上向いたと思われる2013年(30.2%)以来、自宅用の購入率が急落している点である。
花を購入する場面(日)について、おもしろいと思ったデータがある。花を贈る場面と相手は、母の日(62.0%)で母親(義母)が圧倒的に多い。しかし、花を購入する日(イベント)は、微妙に変化している。象徴的なのは、「お正月」(今年17.1%:前年13.1%)と「桃の節句」(同、10.5%:5.3%)に購入率が上がっていることだ。花業界の努力があってのことだろうが、バレンタインも購入率が高くなっている(同、5.0%:2.5%)。
確かに、母の日に需要が集中していることに変わりはないのだが、季節感を感じるようなその他の物日に花が売れるようになったことは嬉しいことではないのか。外来の文化ではあるが、ハロウインの行事で、花が売れていることも間違いない。聞くところによると、ハロウインの物販の売れ行きは、バレンタインの時を追い抜いたと言われている。
今回の調査では、いままでにない項目として、「エディブルフラワー」の認知率と購入意向を調べてみた。個人的にも、近頃、レストランで食事をするとき、サラダやメインディシュのプレートに、エディブルではないが、デンファレやキンギョソウやマムをよく見るようになった。デザイン上の美しさを狙ったものだろうが、場合によっては可食性(エディブル)をうたっているメニューも増えている気がする。調査結果は、エディブルフラワーの認知率が23.5%、購入(利用)意向(食べたい)が8.3%になった。また、「無農薬で安全なものなら食べたい人」が34.0%にのぼっていた。とりわけ、20代男性の利用意向(59.6%)が際立っていた。このごろ、周囲の切り花生産者で、エディブルやエステのための無農薬のフラワーにチャレンジする農家が出現している。
なお、花の必要度について、青木さんが面白い分析をしてくれている。2009年の質問(「子供の頃に身近に花がありましたか?」)を復活させてみたところ、「家の室内に定期的に飾られていた人」は20.4%(2009年22.7%)と微減だったが、「庭に花が咲いていた」人は49.2%(2009年68.5%)で、19.3%も減少していた。「花が身近になかった」人は22.9%(同9.8%)で2倍に増えて「花は生活に必要」と思う人も14.2%(同27.5%)で半減していた。このことの意味するところは、花の消費だけでなく、人間の暮らしにとってかなり深刻な事態なのではないだろうか?