長く続くコロナ禍と、ロシアのウクライナ進攻で、小麦などの農産物と石油を原料とするモノの値段が高騰している。花の値段も同様である。人手不足と物流コストが高くなったことで、重厚長大の花ほど運びにくくなっている。重くてかさばる、(輪が)大きくて(茎の)長い花は、物流業者に嫌われている。
一方で、コロナ禍をきっかけに、ホームユースの市場が拡大している。ブルーミーや日比谷花壇のようなサブスクや、ユニクロのような他業界からの参入もあって、短茎の切り花は供給不足である。花業界としてはじめてのことが起こっている。市場で取引される花の価格と重さ(長さ)が比例するようになったのである。
福島県の会津でカスミ草と草花類を生産している菅家博昭さん(JFMA理事)から聞いた話である。「いまから20年前、30センチの草花を作ると30円で売れた。でも、80センチの長さの草花を出荷しても、値段は同じ30円だった。20年後のいま、大手市場で80センチの花が80円で売れるようになった」。
キクやバラでは、それとは逆のことが起こっている。かつて茎が太いしっかりした菊は、長さに比例する以上の高値がついた。大きな輪のバラには、重量に比例する以上のプレミアム価格が付いたものだった。ところが、人件費と物流コストの高騰で、花の長さと重さが正比例するようになった。花の重量で運賃が決まることになったからである。
海外から輸入される農産物の価格上昇は、米や小麦などの穀物類の国内生産を有利にしている。第2次世界大戦後はじめて、今年に入って小麦の重量当たりの価格が、米の価格を上回った。国産の米(粉)の値段が、輸入小麦(粉)より安くなったのである。
わたしは、これを「重さの経済学の報復」と呼んでいる。運賃や人件費が安いときには、適地適作で海外から単品大量の穀物類を輸入することが経済的に引きあう。圧倒的に価格優位に立てるからである。しかし、例えば、物流賃と人件費が最終売価の30%を超すようになると、たちまち国産が有利になる。国内生産でも、運ぶ距離が短い消費地近郊で生産するほうが有利だからである。
花の産業で今起こっていることで、もうひとつ注目すべきことは、三大品目(キク、バラ、カーネーション)の切り花全体に占める割合が小さくなっていることである。しかも、将来に渡ってこの傾向は続くと考えられる。
ホームユースの花やサブスクの普及は、短い茎の花に対する需要を増やしただけではない。どちらもリピート購入が主体になるから、単価が高い豪華な花は必要とされない。むしろ自宅に毎週届く花は、飽きがこないバラエティが必要とされる。サブスクが多品目(草花類や葉物)の短い花を必要とする理由である。
2年ほど前に、ネスレの「キットカット」が10%ほど重量をカットして販売された。値段は同じだから、実質的な値上げである。ネスレ本社の説明によると、チョコレートの容量を小さくしたのは、人々を健康にするために、砂糖の量減らしてダイエットの機会を与えるためだとの説明だった。切り花のサイズダウンは、わたしたちに、資源の無駄使い(=環境への配慮、物流コストの低減)を訴えているのだろうか?