JFMAのロシア視察ツアーで、サンクトペテルブルグとモスクワの花店を見た。事前の情報で知ってはいたが、一番に驚いたのは、切り花の値段が異常に高いことだった。国際的にみて、花の値段がかなり高いと言われているわが国と比べても、切り花の平均小売価格が2~3倍の高さである。品質はそれほど悪くはないが、それにしても値段が高いのである。
たとえば、標準的な輸入のバラ(コロンビア、エクアドル、ケニア産)で70~80センチクラスの小売価格が、100~200ルーブル(約350~700円)である。花束にしてしまうと、これがさらに倍になるので、一本単価では1000円を超えてしまう。
サンクトペテルブルグの郊外で、“ORANGE”(ロシア語を英語綴りにすると「オレンジ」になる)という花屋チェーンに遭遇した。市内に40店舗を持つ大手のチェーンらしい(ガイドさんが調べてくれた)のだが、その店頭では、バラを中心に作った30~50本入りのブーケが約2~5万円である。量販店(ハイパーマーケット)に置いてあるバラは、30ルーブル(約100円)からはじまるが、短径で品質はあまりよろしくない。これほど値段が高いのには理由があるだろう。ロシアを旅している間中、そのことを考えていた。
雑誌などでも紹介されているように、ロシアの都市部(モスクワやサンクトペテルブルグ市内)には富裕層がたくさん住んでいる。ロシアは資源大国である。資源エネルギー立国で、国営企業由来の民営企業が「オリガルキ」と呼ばれる利権層を生み出した。そこから派生した企業と経営者層がロシア経済を牛耳っている。プーチンの支持基盤もこの辺にある。(*ロシアの歴史を紐解くと、17世紀のロマノフ王朝からレーニンの社会主義時代、そして現代にいたるまで、少数利権層支配の寡頭体制だった。)
金持ち層の分厚さは、百貨店の品ぞろえと値段によく現れている。モスクワ(人口1500万人)とサンクトペテルブルグ(500万人)で百貨店を見て歩いた。世界中の高級ブランド品はほぼすべてが揃っている。それだけではない。たとえば、日本のデパ地下にあたる売り場には、世界中から集められた高級食材が置いてある。日本から輸入された梨やリンゴも陳列されていたが、その値段たるや想像を絶して高価である。1個!2千円~1万円。
切り花の値段が高い理由の二番目は、ロシアの寒い気候と物流上の問題である。モスクワ郊外とウクライナ地方に、国産バラの生産者(10~20ヘクタール規模)が数件存在することが分かった(フラワーEXPO会場で数軒のロシア生産者と話すことができた)。夏の期間が短いから暖房コストがばかにならない。また、花チェーン店のORANGEが販売している切り花(バラ、ひまわり、トルコ、アルストロメリア、マム、スプレイカーネーションなど)は、すべてオランダからの仕入だった。フィンランド経由でオランダからはフェリーで運ばれ、フィンランドからはトラックでモスクワまで陸送されてくる。船便とトラック便で運賃が2重にかかっている。北欧の切り花価格も高かったことを思い出した。
良い面に目を向ければ、ロシア人の生活に花を贈る習慣が根付いていることである。それほどの高い値段でも、女性へのプレゼントとして購入する男性がいるということである。モスクワの空港では、花屋さんと花の自動販売機を見かけた。街中の小さなスーパーにも、花の自動販売機が置いてあった。そして、飛行機を降りてきた女性に、恋人がブーケを手渡してふたりで去っていく姿を滞在中に何度も見かけた。うらやましい光景ではあった。