「母の日参り」『JFMAニュース』2022年5月号

 JFMAの理事会やオンラインサロンで、「母の日を振り返る」というテーマでリモート討論会が開催されている。その討論会の席で皆さんが異口同音に指摘していたことのひとつに、「母の日参り」が行事として定着してきたという感想があった。花の日参りとは、「ゴールデンウィークから母の日にかけて、亡くなった母親の墓前を訪ねたり、ご自宅の仏壇にカーネーションを備える習慣」のことである。

 

 初めて「母の日参り」という行事の存在を知ったのは、JFMAのアフタヌーンセミナーだった。その時のテーマは、「2017年度母の日参りキャンペーンのご提案」だった。当時の記録(2017年4月11日)によると、講師として、日本香道の土屋義幸氏(常務取締役)と稲坂良弘氏(特別顧問)のお二人をお迎えしていた。

 日本香道の方の話では、「お墓参りでなくても仏前に、お花や母の日らしくお花の匂いがするお線香をお供えすることも増えています」との説明があった。その話を聞いて、花の香りがするお線香(「花の香」というブランド)があってもおかしくないと思ったものである。

 調べてみると、この行事のはじまりは、JA紀州和歌山の青年たちが提起したイベントらしかった。生産者の課題として、「春3月の彼岸のあとで、仏花需要のあるイベントが少ない」という事情があった。そこを突破するイベントを探して、「母の日参りキャンペーンプロジェクト」に取り組むことになった(『日本農業新聞』2017年4月27日の記事から)。

 彼らの情熱が和歌山県知事を動かすとともに、「母の日参り」の商標を登録していた日本香道が、JA和歌山青年部が提案したキャンペーンに協力することになった。わたしたちが、アフタヌーンセミナーで話を聞いたタイミングが、キャンペーンが本格化する直前だった。

 いまネットで「母の日参り」と検索すると、最初に出てくるのが、「hahanohi-mairi.jp」というサイトである。これがキャンペーンの母体になっている。運動に協力している企業としては、日本香道の他に、日比谷花壇や亀屋万年堂、サントリーフラワーズやTBSテレビが上がってくる。必ずしも花に関わらなくとも、一流の会社/ブランドばかりである。

 わたし自身のことになるが、3年前の4月1日に母親を事故で亡くした。しかし、直後に国内でもコロナの感染が広がり、お墓がある故郷の秋田には一度も帰れていない。「母の日参り」の習慣は知っているが、東京にお墓があるわけではない。墓参ができていなかったのである。ところが、今年のゴールデンウィークは、蔓延防止措置が解除になった。

 3年ぶりに墓参りができる条件が整った。秋田に帰省はできないが、義父や義妹のお墓がある南蔵院(葛飾区立石)に墓参することにした。かみさんと二人で、自宅から歩いて行って、10年前に亡くなった2人にお花を供えることした。

 墓参りを終えた後、お線香を自宅に持ち帰って、母と父の遺影にカーネーションを手向けた。形はちがうが、立派な母の日参りである。実際にやってみると、この習慣は素晴らしいと思った。公式的にキャンペーンが始まってからまだ5年である。しかし、母の日参りの習慣は、この先は間違いなく定着することになるだろうと確信した。わたしたち自身の心が、きれいに洗われた気持ちになったからである。