一昨年、国会で参考人を体験した。「消費税特別措置法案」が国会で審議されていたころである。衆議院での意見陳述の経験を「JFMAニュース」(2013年4月号)で紹介した。国会では、花の例を挙げて消費税の上げ方を説明した。花業界のプロモーションのつもりだった。
中国花き協会が開催している国際展示会(昨年度からはIPM主催に変更)を視察するため、上海に滞在していた。滞在最終の前日に、秘書の福尾美貴子から携帯メールが入った。「衆議院の経済産業委員会からで、4月24日の国会審議で参考人として意見陳述ができるかの問い合わせがありました。先生、どうなさいますか?」との連絡だった。わたしが参考人に選ばれたのは察しがつていた。候補者になっていることは、中国に行く前から知っていた。これまでも、経済産業省と農水省にはずいぶんと貢献しているからだ。特許庁・商標委員会の委員(商標の国際共同申請プログラム)や経産省のサービス産業関連の開発座長(JCSI)、農水省では「花き産業振興方針」の策定委員などを務めている。
おもしろいので、国会体験をしてみたいと思ったのだが、あいにくその時間は授業が入っている。水曜日午後の時間帯は、学部の演習がある。もし審議に参考人として出席するとなると授業は休講になる。公務とはいえ、いまどきの大学は補講が義務づけられている。結局、急きょその週末の土曜日に補講をして、水曜日の学部ゼミは延期にすることにした。
国会の本会議の場ではなく、経済産業委員会の参考人である。その日の審議は、全体で180分。「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法案」(「消費税特別措置法」)について、(価格表示関連の理論と実務の)専門家として意見を述べることになった。わたしの他には、立教大学の舟田名誉教授(独占禁止法のプロフェッショナル)と、上西氏(税理士会代表)が参考人として選ばれていた。持ち時間はそれぞれが10分ずつである。各人が意見を述べた後で、自民党から共産党まで各党代表者6人の質問を受ける。質問者の持ち時間は15分で、トータル90分という長丁場の審議だった。参考人の陳述にはレジュメを用意していた。しかし、質問者が何を質問してくるかは、事前にはまったくわからない。実際の審議でも、ちょっとスリリングな展開になった。
結論的には、3人とも法案支持であった。ただし、わたしだけは条件付きの賛成だった。その理由は、消費税の増税に際して、上程されている法案では、価格転嫁に関して規制がきびしすぎると感じたからだった。たとえば、「消費税還元セールの禁止条項」など、自由なビジネスを阻害する付帯条項が入れられていた。前々日に参考人として呼ばれていた柳井さん(ユニクロ社長)や岡田さん(イオン会長)らは、NHKテレビで中継された本会議で、「吠えまくっていた」らしい。消費税が2014年に5%から8%へ、2016年には10%に引き上げられることは決まっている。特別措置法は、その上昇分を中小の納入業者に強制転嫁させてはならないという法案である。その強制度合いは、本会議の参考人(柳井、岡田)やわたしたちの専門家の意見(価格転嫁を実際的に強制排除することは困難)で弱められるだろう。
ところで、わたしが国会の参考人をあえて引き受けた隠れた理由を白状する。審議の参考人に応じたのは、国会議員と経済産業省の上級官僚たちに、花の業界をアピールしておきたかったからである。だから、参考人として「消費税の価格転嫁」の説明をするときには、「花束の価格付け」の例をわざわざ取り上げることにした。心理的な価格づけで「大台効果」を説明するために、298円(端数価格)、300円(ジャスト・プライス)、315円(本体+税)の3つの価格付けの方法を花束で示してみた。3%の消費税アップが消費者価格にうまく転嫁ができるかどうかを示したわけである。
国会で参考人として陳述するにあたっては、法政大学大学院で教授をしているかたわら、「日本フローラルマーケティング協会」の創業者・会長であることを、最初に自己紹介している。経済産業委員会の審議がライブで放映されていたことは、山形の生産者の方から後に知らされたことである。審議の記録(アーカイブ)は、ネット検索で「衆議院インターネット審議中継」(4月24日)の「経済産業委員会」で覗き見ることができる。