【巻頭言】「市⺠講座は大繁盛」『JFMAニュース』2025年7月20日号

 樹木医の石井誠治さんから年賀状が届いた。賀状の隅っこに手書きで、「川崎の市⺠講座で講義をお願いしたいです」という一言が添えられていた。コロナ禍の真っただ中で、大学の授業がオンラインになり、学外で講義を引き受けられる状態ではなかった。そのままにしておいたところ、「かわさき市⺠アカデミー」の募集要項が入った封筒が届いた。

 今度の依頼は、「花の産業についてお話をお願いしたい」という具体的な内容だった。ご本人から講座の様子を伺い、時間に余裕ができたところだったので、講師を引き受けることにした。石井さんは、「(株)新宿花大」の元番頭さんである。拙著『花ビジネスで成功する法』(草土出版、1994年)で「花の自動販売機」(伊藤忠商事なども花の自販機を作っていた)を取り上げた際、取材に対応して下さったのが石井さんだった。
その後、花大を退社した石井さんは、樹木医の資格を取得して、その方面で活躍するようになっていた。

 講義を依頼された「かわさき市⺠アカデミー」は、1993年に川崎市生涯学習財団の下で開学。その後、NPO法人となり、財団と協力して講座の運営に当たっている。川崎市⺠のために、約30の講座(前後期、各12回)を開講している。トータルでは相当な数の受講者数になるのだろう(3千人?)。わたしが担当することになった「みどり学II」は、定員が60名。副学⻑の石井先生がコーディネートしている3つの講座群(みどり学I、みどり学II、野の自然学)は、街中や野山に出て花や植物を観察する「フィールドワーク」が、講義の開講コマの半分だとのこと。
 わたしの講義のタイトルは、「花産業の新しい動き:大量生産から「野の花産業」へ」に決まりまった。内容は、1花き業界の現状と変遷、2新しい市場の動き、3ビザールプランツ、4野の花産業、5枝物市場の復興である。世界の花産業が、施設園芸で大量生産一辺倒から、露地栽培を主体として、多品種少量でナチュラルなテイストの花(野の花)や枝物を取り扱うようになった歴史的な背景とその実態を講義では紹介することにした。
 講義当日の7月11日、教室に入って驚いた。50人収容の教室が満席だったからである。教室は立錐の余地もない。石井さんから、「みどり学の受講者は、20年近く継続して受講している方ばかりです」と事前に情報をいただいていた。講義の最中も、皆さんとても熱心にわたしの話に耳を傾けてくださっていた。受講者の平均年齢は、65歳くらいだろうか?

 花や植物に対する興味は、年齢を経るにしたがって高まっていくものである。また、花や植物、樹木と触れ合っている人は精神が安定しているから、病気になる可能性が低いと言われている。医学的・心理学的なエビデンスもある。受講者たちの振る舞いを見ていると、その経験則は正しいのだろうと確信できる。受講者たちは、「植物大好き人間」に見える。講義の最中に質問を受けているときでも、皆さん、笑顔が絶えない。

 ところで、授業の評判がよかったようで、「秋に開講される“みどり学I”でも、同じ内容の話をしていただけませんか」という依頼が、翌週に石井さんから送られてきた。10月21日は、川崎市在住の元大学院生や友人に声を掛けてみようと思っている。
 よく聞いてみると、“みどり学”の講座”は、野外観察活動などもたくさんあるので、人気講座とのこと。わたしが担当した「みどり学II」(前期)は、「みどり学I」(後期)が定員を超過してしまい、新たに増設した講座(実際は、前後期のダブル開講)のようだった。川崎市が企画運営している市⺠講座は大繁盛でした。

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