「続・鎖国のすすめ:英国人の国産農産物への回帰」『JFMAニュース』(2019年8月20日号)

  欧州ツアー(2019年5月)から日本に戻ってすぐMPSジャパンで調査を担当している青木恭子さんから一通のメールを受け取った。電子メールの表題は、「英国の花国産化進む 2017年12%→2018年14%へ」となっていた。

 

 彼女が引用していた『ガーデアン誌』は、2019年6月13日号。「わたしたちが取材したウエイトローズの場合では、国産シャクヤクが前年比48%増えたそうです」(青木さん)とコメントが添えられていた。

 今回の欧州訪問では、テスコ、セインズベリー、アズダ、ウエイトローズの4店舗を観察した。ここ10年来、定点観測している代表的なチェーンを訪問したのだが、店頭を見ていると、数年前と比較して国産の野菜や切り花を強化する店づくりになっていたことが明らかだった。“Brexit”と無関係ではないだろうが、英国民は、環境への配慮(温暖化防止策)と新鮮な国産農産物をすすんで購入しようとしている。

 そうした国民感情を反映してなのか、大手小売業チェーンでも、国策として花や野菜、あるいは一般の農産物に、「ユニオンジャック」(英国の国旗)のシールを貼っているのが目立っていた。数年前に一度、この傾向は後退していたのだが、ローカル重視はデータでも裏付けられていた。また、国産の農産物への傾斜は花だけでないらしい。農産品全般でも、英国産をプロモートするシールが売り場に溢れていた。

 20年ほど前から、いずれ欧米の先進国では、「農産物(花を含む)とその加工食品が国産に回帰するだろう」と予想をしていた。フランスやドイツ、イタリアでは、食糧自給率が100%近くに達している。「食のグローバリゼーション」を極端に推進しないよう、輸入農産物の供給を政府がコントロールしてきたのである。イタリア発祥の「スローフード運動」はその象徴的な存在である。欧州と米国の経済的・思想的な葛藤は、食糧安全保障政策をめぐっての路線対立だった。

 ただし、そうしたトレンドの中で、欧州先進国の中では、英国と北欧3国(スウェーデン、ノルウエー、フィンランド)だけが例外的な存在だった。しかしながら、時計のねじ針は逆に回転を始めているようだ。いまや農産物のグローバリゼーションを抑止しようとする貿易政策と環境保護政策が欧州では同期しているように思う。

 他にも理由はあるのだろうが、英国や北欧3国も、食の分野で自給自足(鎖国)を目指して動き始めたようだ。英国では、春のガーデンを彩る水仙やフリージアは、もともと国産だった。それが、ピオニー(シャクヤク)などにも広がってきているらしいことは、今回の欧州ツアーで確認できたことでもあった。

 翻って、わが日本国の農業政策はどうなっているのだろうか。日米間の貿易不均衡が顕在化しないよう配慮しようとすれば、このままでは農業部門は「生贄」にならざるを得ない。2018年度中に、カロリーベースの食料自給率はとうとう38%に低下している。わずか39%から1%の下落とはいえ、メディアは自給率の低下を象徴的に取り上げている。

 英国の切り花や農産物の国産化の動きと、日本の現実は逆の方向に動いている。国内の農家数が減少して、後継者も十分に育っていない。休耕田が増えて、とくに地方で農地は荒れ放題である。切り花や鉢物の生産者も減少気味である。それが花の需要がしぼませる原因にもなっている。八方ふさがりの国産農産物の需要を喚起する農業政策が、いま求められているのに、である。