新春セミナー2023では、「種苗の動向と2023年の花きのトレンド」をテーマに取り上げた。セミナーの冒頭で、年始のあいさつ代わりに、短いプレゼンテーションを準備した。わずか5分の挨拶に、パワーポイントを準備するのは、わたしとしてはめずらしいことである。
その意図は、前半のトークセッション1(種苗の動向:コーディネーター・菅家博昭さん)と後半のトークセッション2(花の消費トレンド:コーディネーター・小川)が、内容的に少し隔たりがあるのではと考えてのことだった。そこで、両方のセッションをつなぐ概念として、「分断」というコンセプトを提示した。
われわれの社会には、いま3種類の分断が存在している。3つの分断を超えられなければ、もしかすると人類は破滅の道を歩むかもしれない。個人的な危惧を「分断」という言葉に託して表現してみたわけである。
わたしが概念化した分断とは、以下の3つである。①「国境」(政治と民族)の分断、②「世代間」(若者と年寄り)の分断、③「ニーズ」(生産と消費)の分断である。人類にとっての最大の課題は、3つの分断をいかに乗り越えることができるかである。実は、花き業界の将来的な繫栄も、この分断を乗り越えられるかどうかにかかっている。
分断というの概念を思い付いたのは、『日経新聞 朝刊』(1月17日号)に掲載された柳井正氏(ファーストリテイリング社長)の「今こそ大移動を」というインタビュー記事に触発されてのことだった。いま米中が政治・経済的な覇権を巡って戦っているが、世界の消費者を相手に商売をしている日本企業は、グローバルな活動をやめてはならない。日本のビジネスマンは、いまこそ世界を股にかけて「大移動すべきである」という主旨の発言だった。
この見解には、賛否両論があると思う。わたしの親しい友人(大手コンサルティング会社アナリスト)は、米中間にニュートラルな立場はありえない。どっちつかずになってしまう。ユニクロが新疆綿のサプライチェーンの透明性に関して、かつて欧米メディアから激しく批判されたことを念頭に置いての指摘だった。
どちらの立場も分かる気がするが、花業界の場合は、注力すべき分断は、「国境の分断」ではないように思う。3番目の「生産と消費」の分断が大事である。いま生産者が作っている花や植物と、消費者が必要としているものとの間に大きなギャップが存在しているからだ。両者の間にあるギャップは、栽培品目や品質・グレードだけではない。生産方法や販売手段に至るまで、求められている消費者ニーズに生産段階が対応できていない。
ところで、新春セミナー前日の『日経新聞 朝刊』(1月16日号)で、新浪剛史氏(サントリー社長)が「忘れられていく日本」というコラムで、国際社会での日本人の発言不足に警鐘を鳴らしていた。新春セミナーでパネラーを務めていただいた坂嵜潮さん(フローラトゥンティワン代表取締役長)と三好正一さん(ミヨシグループ代表取締役社長)のように、「日本人として、世界に打って出る気構えを失ってはならない」というのが新浪氏の主張だった。
その点から言えば、ユニクロの柳井氏の発言(令和の民族大移動)は、品種開発にコミットしているお二人の行動と符合しているように思う。そこには、アパレル産業と花き業界との間に分断は感じられない。