年賀状の印刷枚数が減少しています。わが友人たちで退職した同僚や、喪中をきっかけに年賀状を出さない人が増えています。わたし自身も、ピーク時には年間500枚近くの年賀状を印刷していました。年々枚数は減っています。今回のコラムでは、年賀状を辞める人たちの事情「年賀状納め」について考えてみました。
「年賀状納め」『北羽新報』2023年1月30日号
文・小川孔輔(法政大学名誉教授、作家)
日本郵便によると、1949年に始まった年賀状の発行枚数は、初年度は約1.8億枚だったそうです。年々発売枚数は増えて、ピーク時の2003年は約44.6億枚。国民一人当たりにすると約35枚です。20年後のいま(2023年)は、発売枚数が約18.3億枚だそうです。
最盛期と比較すると、枚数が半分以下に落ち込んでいます。年賀状の販売枚数を増やすため、日本郵便は大々的にCMを打っています。それでも、年率5~10%の枚数の減少を阻止することができていないようです。デジタルの時代に入って、メッセージを紙で伝える文化が終わりかけているからなのでしょうか。
年賀状の枚数が減っている理由としては、コミュニケーション手段としてSNSが普及したことが指摘されています。しかし、年賀状を出すのを辞めるのには、それとは別の動機があるようです。
わたしの場合は、還暦(60歳)を過ぎたあたりから、先輩諸氏(当時65歳~70歳)から、「年賀状納め(年賀状じまい)」を頂くことが増えました。「年賀状納め」とは、翌年から年賀状を出さない告知・宣言のことです。先輩筋にあたる団塊の世代(1946年~1950年生まれ)が、わたしより10年ほど先に職場を去っていったからだと思います。団塊の世代が社会の中核から去っていったのが、2000年代の後半からでした。この時期には、たしかに年賀状の総販売枚数が大幅な減少に転じています。
タイミングもあるようです。元同僚の女性教員は、父親が亡くなった年に喪中はがきを出した翌年から、年賀状を出すのを辞めたとのことです。先生の父上は、東海地方で郵便局長を務めていました。余談ですが、年賀はがきの住所録はご本人(娘)が管理していたので、「父親の喪中はがきの印刷には、全く困ることがでなかった」そうです。
ところで、自分自身について、年賀状の印刷枚数の変遷を調べてみました。ブログ記事を検索したところ、2012年に近くの郵便局で400枚を購入していました。7年後(2019年)の印刷枚数は315枚でした。ピーク時からは2割の減少です。
ところが、今年の印刷枚数は350枚で、前年と比べて微増でした。退職後に枚数が減らなかったのは、現役時代から会社宛には年賀状を出さないと決めていたからです。すべて個人宅に送付していました。
なお、年賀状納めの動機は、人によって異なるようです。①住所管理や手書きで一言が面倒くさい、②仕事がらみの人間関係の断捨離、③葉書を出すのが作業的にしんどくなってきたなど。わたしの場合、文筆業や経営指導で仕事を続けています。当面は、年賀状納めをする予定はありません。
しかしながら、つぎの条件が重なったときは、年賀状が出せなくなるかもしれません。①秘書の内藤光香が引退して、住所データベースが管理できなくなったとき、②わが妻が年賀状を印刷してくれなくなった場合。
こうして事実を確認していくと、わたしの年賀状書きは、他人(妻と秘書)の技能と好意に依存していることが明らかです。同僚の女性教授のお父様と、わたしの現状はよく似ていることが分かりました。年賀状納めは、決して他人事ではなかったようです。