(その11)「すべてサンプル加工品? 秋田県産の自家用缶詰」『北羽新報』(2017年6月21日号)

 この号については、校正時での手違いから、冒頭部分で「森岳の食品会社」の実名を残してしまいました。翌週の号(6月24日号)に、お詫びの文章を掲載しています。じゅんさいなど、秋田産の缶詰の賞味期限を扱ったものですが、文章に誤解を招くところもありました。

 

「すべてサンプル加工品? 秋田県産の自家用缶詰」
『北羽新報』2017年6月21日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院)

 

 5年ほど前のことです。自宅の台所のテーブルに、「森岳名産 じゅんさい」と書かれた瓶詰が鎮座していました。母親から送られてきたものらしく、ラベルを忠実になぞってみると、「純国産 酢酸使用」とあり、これを食べるかどうか、わたしは頭を抱えていました。
 見た目は悪くはなさそうです。ビン底に沈殿している寒天状の若芽は、弾力を失っていません。しかし、大きな問題がひとつだけありました。ビン詰めには、賞味期限どころか、製造年月日が入っていないのです。記憶もあいまいで、昨年の秋ごろ(たぶん2010年ごろ)、きりたんぽシーズンに宅配便で送られてきたものにちがいありません。母親の実家は、この食品会社の所在地・旧山本町にあります。田圃をじゅんさい池に改造して、当時は瓶詰(一部はポリ袋入り)を販売していました。

 目の前のじゅんさいの瓶詰は、そのうちの1本と思われます。3本ほど送られてきたうちの2本は、すぐに酢の物にするか、汁物に浮かべて食しました。なぜか1本だけが年末恒例の「食品庫整理」で発見されてしまったのです。

 出てくるわ、出てくるわ。床下収納庫の中は、秋田県産品のオンパレードでした。たとえば、「JForestマーク 秋田特産(自家用)きのこ(品名 キムタケ)/委託加工 仙北東森林組合(サンプル加工)」「委託加工品 ふき(表示はこれだけ!)/二ツ井特産加工場」

 実はこれ以外にも、旅行のお土産とおぼしき「ブルーベリージャム」や「リンゴペースト」など地方の特産品が出てきましたが、いずれも製造日と賞味期限が明記されていました。
 しかし、秋田県産の「(サンプル)委託加工品」だけは例外だったのです。じゅんさい、名前がわからないキノコ、二ツ井のふき。亡くなった父親(小川久)が山の中から採集してきて、缶詰にして残していったものかもしれません。

 京都在住の娘とこの話をしていたら、「お父さん、自家製のキノコやタケノコを缶詰にするのは、全国でも秋田県だけらしいわよ」と教えられました。わたしは昔から山で採ってきたキノコやタケノコは、余ったら缶詰にするものだとばかり思っていました。だから、「そんなのは秋田県だけ」にはびっくりでした。
 それだからなのでしょう。秋田県産の(自家用)缶詰には、製造年月日も賞味期限も書いていないのです。秋田県には、特別な県令(法律・条令)があるにちがいないのです。それが証拠に、どの缶詰にも例外なく、「サンプル(委託品)」と書いてあります(笑)。これは、食品衛生法を逃れるための便宜なのかもしれない。娘に言われてはじめて、疑いの目で缶詰を見るようになりました。秋田県在住の方、東京移住者に真実を教えてください!

 

 そのおかげで、わたしは暗い床下の食品庫に何年も眠っていたビン詰めの保存状態をチェックするはめになったのです。目の前にあるじゅんさいを潔く捨てるべきか?それとも、お吸い物の具として使いまわすべきか。迷っていたのです。
 インスタント系の保存性のある食材ならば、賞味期限から数か月が経過しても「問題なし」として食べています。「三分の一ルール」(賞味期限前の三分の1経過後に商品を棚から撤去する自主ルール)があることを知っているからです。
 さて、読者に質問です。みなさんは、賞味期限が切れてからどれくらいなら、その食品を使ってみようと思いますか?綾小路きみまろは、「中高年 鼻で確かめる賞味期限」と漫談の中で話していました。わたしの場合も、それに近いところがあるかもしれません。あのじゅんさいは、一体全体どうなったのかって?興味のある方には、こっそりと真実を教えてさしあげます。

 

 

 <お詫びの訂正記事>

 (6月)21日付け1面コラム「東京下町発能代着」で、2010年ごろに届いた「森岳名産じゅんさいの瓶詰め」に賞味期限が入っていなかったとの記述がありましたが、当該の会社では当時は瓶の裏側に賞味期限を印字したラベルを張っていたとのことで、剥がれた可能性があるとの指摘がありました。確認が不十分のうえ、編集の最終段階で手違いにより三種町の森岳食品の会社名を記載してしまいました。おわびして訂正します。