連載の第3回目は、秋田県の地政学的な位置について論じてみました。戦後ながらつづいてきた太平洋の時代に代わって、「日本海の時代」が再来するという論点です。きっかけは、これから発展するだろう日露貿易協定の発効です。
地図を上下逆さまにしてみたことがありますか?実際にやってみると世界がまるで変わって見えます。金沢にある「デスタン株式会社」(榊の国内シェア20%)の事務所を訪問したときのことです。友人の北本政行社長の執務室には、南北が上下反対の方を向いた日本地図が掲げられていました。アジアの中心が金沢で、ロシアと中国が地図の下側にありました。なんとも不思議な絵図なのですが、北極を地図の上にするという作法は、誰かが決めたルールなのです。南が上になっても不都合は何もありません。
高校の社会科の授業で習ったと思いますが、江戸時代の後期まで、国内の輸送物資は主として日本海を往来していたものでした。東北地方の米や北海道の海産物は、北前船で京都や大阪に運ばれていたのです。日本人が太平洋の向こう岸に目を向けるようになったのは、ペリー総督が黒船で下田に来航してからのことです。
ところが、明治維新から約150年の歳月が流れて、日本の羅針盤はふたたび日本海の向こう岸を指し始めています。12月15日には、安倍・プーチン会談が山口で開かれます。北方領土四島がすべて返還されるとは思えませんが、首脳会談をきっかけに、いまよりは日露間での貿易が活発になりそうです。日本の経済支援で、日本海の海底にケーブルが敷かれ、電線やパイプラインが日露間を結ぶという構想があるとも聞きます。
20世紀は太平洋側の地域が発展した時代でした。東京を中心として関東圏と自動車産業が発達した中京圏が経済の中枢を占めていました。太平洋の対岸にある米国との貿易が拡大し、政治・軍事など日米関係が緊密になったからでした。
それでは、21世紀の政治関係や貿易事情はどのように変わっていくのでしょうか?一言でいえば、「日本海の時代」が再来するとわたしは予測しています。その根拠は、米国(大統領候補がTPP批准に消極的)と英国(EUからの離脱が決定)が、国際貿易の推進に対して腰が引けているからです。アングロサクソン民族(米英)の国際的影響力はまちがいなく低下していきます。ですから、民族的に好き嫌いは別として、この先の日本は、ロシアや中国とうまく付き合っていかざるをえないのです。
互いに利益がある交流分野は、技術協力と観光開発でしょう。人と物と金の往来は、物理的な距離的が近いという事情から、ふたたび日本海を通して行われると考えてよいでしょう。沿岸に住んでいる「日本海人」(東北、北陸、山陰)は、ようやく経済的に日の目を見ることができるようになります。とりわけ日露関係の修復は、秋田県人には良い知らせなのです。金沢県人の北本さんに倣って、東北人のわたしたちも自宅に掲げる地図をいまとは逆さまにしてしまいましょう。日本海側の都市(新潟、秋田、能代)がアジアの中心にあるように見えてきます。
国際政治と貿易関係の地殻変動は、日本で最も人口減少がはげしい秋田や青森が復活するチャンスです。対ロシア貿易が引き金になって、秋田美人を色白にさせた遺伝子のもとになったと言われる白系ロシア人の血が、秋田に戻ってくるかもしれません。そのとき、日本海貿易の中心地を、またしても金沢や新潟に奪われないよう注意することです。秋田県人と青森県人が手を携えて、かつて握っていた権益を今度もしっかり確保するよう結束しましょう。