(その9)「逆父兄参観:京都女子大で初体験」『北羽新報』2017年4月20日号

 「東京下町(森下)発能代着(4月号)」(巻頭エッセイ)の順番をまちがえていたようです。ブログの順番も、4月号を飛ばしていました。正しくは、4月号が(その9)です。京都女子大での初講義の印象記です。娘が授業参加してくれました。

 

「逆父兄参観:京都女子大で初体験」『北羽新報』2017年4月?日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院)

 

 大学教員になって42年。はじめて他大学で講義を受け持っています。教えているのは、娘の母校、京都女子大の3回生27名。担当科目は、現代社会学部の「特講Ⅱ」(サービスマーケティング)。毎週金曜日の3時限目は、小さな教室で90分の授業を担当しています。初講義は4月7日で、教室の窓から見える桜が満開でした。
 京都は日帰りもできますが、午前中の新幹線でゆっくり東京を出て、毎週金曜日は京都泊にしています。京都の嵐山に娘の家があるからです。長女の知海(ともみ)は、京都駅前にある「ホテルグランヴィア京都」(JR西日本が経営)に勤務しています。本人の希望が叶い、千葉の県立高校を出て京都女子大に入学しました。18年前のことです。ところが、親の思惑とは裏腹に、卒業後もそのまま京都に居ついてしまいました。これもよくある話だと思います。

 

 ところで、これまで他大学では一度も教えてこなかったわたしが、京都女子大で授業を持つことになったのは、決して偶然ではありません。せっかく教えるならば「京都」と決めていたからです。そして、どうせならば「女子大」を希望していました。
 「願えばかなう!」。一昨年、西尾久美子先生がサバティカル(研究休暇)で法政大学に国内留学していました。西尾先生は京都女子大学の教授で、舞妓・芸妓さんの研究家として有名な方です。テレビにもよく出演されています。
 その西尾先生から、研究会の会合で、「来年大学に戻ったら、そして(娘さんの)お家が探せたら、うち(京女)で教えていただけますか?」との申し出をいただきました。宿泊所の確保が先で、講師の仕事のほうは後だったのです。運よく娘は京町家風の家が探せて、教授会に「特講Ⅱ」の講師へ推挙していただきました。長年の夢がふたつとも、一瞬にして実現してしまいました。

 

 第一回目の授業は、生涯で一番緊張した90分でした。当たり前ですが、教室には女子学生しか座っていないのです。新しい校舎の中を歩いている男子は、わたし一人だけでした。心配になってすぐにやったことは、男子トイレを探すことでした。
 パソコンが投影用のテレビに接続できないとか、小さなトラブルがいくつかありました。でも、教室に入ってきた学生はとても素直そうな子たちでした。驚いたことがありました。講義で話している内容を、彼女たちはペンでノートに手書きしているのです。いまの学生たちにはノートをとるという習慣がありません。この子たちに教えるのなら、いずれは緊張がほぐれるだろう。そう確信して最初の授業を終えました。
 ところが、第二回目の授業で、思わぬことが起こりました。この日(4月14日)、特別に休暇を取ったらしい娘から、新幹線に乗っていたわたしの携帯にメールが飛び込んで来ました。「父の授業、聴講しに行っていい?」。久しぶりに懐かしい校舎を覗いてみたいと思ったらしいのです。ダメと断る理由もないので、「じゃ、教室で合流ね」と返信しました。
 娘の前での講義には、別の緊張感がありました。授業が終わってすぐ、娘は「家族line」に父親の授業について感想をアップしていました。「逆父兄参観、おわりー。はじめて父の授業聞いたけど、面白かったよー。もちろんホワイトボードの字が汚いw」(原文そのまま)。これを見た母親(わが妻)が早速、短いコメントをつけた。「逆父兄参観、ナイスね!(笑)」
 家族は知っているのだ。わたしの字が一般人には判読が困難なことを。来週の授業からは、京女の子たちのために、もうすこしホワイトボードの字を丁寧に書くことにしよう。