(その88)「おみくじ、あれこれ」『北羽新報』2024年1月29日号

元旦にブログで書いた「おみくじの話」(#156、#157)をまとめて、地元紙で連載しているコラムに編集し直してみた。原稿は、本日の朝刊一面に掲載されているはずである。そういえば、5月になったら、出身地の能代市図書館で講演を依頼されている。春がすぐそこまで来ている。

 

「おみくじ、あれこれ」『北羽新報』2024年1月29日号

 文・小川孔輔(法政大学名誉教授、作家)

 

 新春らしく、本日のコラムは「おみくじ」の話になります。
 正月休みは毎年、神戸から長男家族4人が上京して、東京下町のわが家に集まります。同居している次男家族4人とわが夫婦で総勢10人。今年も賑やかな年末年始になりました。
 さて、元旦はみんなで、柴又帝釈天に初詣に行くことになりました。帝釈天は、わが家から歩いて15分のところにあります。風邪で自宅待機中のかみさんと、おみくじを引かないことを信条としているわたしを除く8人が、参拝後におみくじを引くことになりました。
 ところが、びっくり仰天です。確率的に極めて稀有なことが起こりました。神戸の長男家族4人のうち3人が、「凶」を引き当てたのです。大阪の住吉神社や京都の下賀茂神社など由緒ある神社では、凶と吉の割合が「3対7」に設定されていると言われています。

 日経新聞の記者が、実際に浅草寺(台東区)に取材したところ、「100本のうち、大吉17本、吉35本、半吉5本、小吉4本、末小吉3本、末吉6本、凶30本」というデータが明らかになりました。浅草寺で凶の比率が高いというのは、世間の噂通りでした。

 

 ところで、長男家族3人のうち、凶を引いてめげてしまったのが、小学2年生の諒(りょう)くんでした。同じく凶を引いた父親(由さん)から、凶の意味を説明してもらっていました。諒くんの札は、「第五凶」でした。「願望 叶いがたし」「病人 本ぷくしがたし」「待人 来らず」「失せ物 出でず」「縁談 見合わすべし」「売買 利あらず」「其の他 控えるがよし」。父親の解説で、彼の落ち込みに拍車が掛かってしまったようです。
 一方、小学校5年生の紗楽(さら)さんは、弟くんとは正反対でした。お姉ちゃんのほうは、凶の札を境内の立木に括り付けると、おみくじを引く直すために、おみくじの「配布所」に戻って行ったのでした。そして、見事に吉の札を引き当てて、意気揚々と戻ってきました。

 その振る舞いを見て、「凶が出ても、女子は何度もお札を引き直すのでは?」とわたしは推論しました。翌日に、元旦の出来事を、親しい友人(男女10人ずつ)にメールで尋ねてみました。その結果、わたしの仮説が正しいことが確認できました。

 女子10人うちの5人は、凶を引くとその場で続けてか、場所を変えておみくじを引き直すと答えてくれました。もっとも強烈な事例を紹介します。元秘書の本村ちなみの場合です。「わたしは、浅草寺でしかおみくじを引かないですよ。5回続けて凶でした。その後、吉、凶、大吉と来ています」。要するに、彼女は吉が出るまで引き続けるということのようです。
 対照的に、「凶が出てもおみくじを引き直す」と答えてくれた男子はひとりもいませんでした。典型的な男子の態度を紹介します。「おみくじは1回目だけが正しいという迷信?を信じているので、同じ日には引き直さず、グッとこらえます」(予備校のマネージャーさん)。おみくじの引き直しに関して、男女差は歴然としています。

 

 後日談になります。元旦に凶を引いた神戸の家族3人が、JR神戸駅近くの神社でおみくじに再チャレンジしたそうです。「湊川神社で引き直して、みなさん無事“吉”になりました」(由さん)。
 なお、息子から送信されてきた画像によると、本人は大吉、紗楽さんは中吉、諒くんは吉でした。神戸組は、今年も良い年を迎えられそうです。