(その46)「鎖国のすすめ:コロナ後の社会」『北羽新報』2020年5月23日号

 米国マサチューセッツ州ボストンに留学中の恩田達紀さんと、数日前の朝方にチャットを原稿にしてみました。連載コラムではじめての試みですが、LINEの会話をそのままに編集したものです。10年来の持論である「鎖国のすすめ」と食料自給率の向上(>70%)を訴えた内容になっています。

  
 これまであまり採用してこなかった形式のコラムです。ただし、こうした主張をどこかで発表してみたいと思っていました。たまたま恩田さんとのチャットで飛び出してきたことではありません。荒唐無稽な主張と批判されることは覚悟の上です。しかし、このくらいの思い切ったパラダイムの転換を試みないと、コロナ後の日本で持続可能な社会を組織することは困難だと思っています。
 当然のことですが、経済的な効率は大いに犠牲になります。また、インバウンド需要とオリンピックを当てにしてきた成長の枠組みを放棄することになります。10年間にわたって推進してきた国策=「観光立国」を捨て去る覚悟が必要です。でも、それは可能だと思います。
 なぜなら、今回のコロナ騒ぎで都会機能の脆弱さ(三密の原因)が明らかになったからです。そして、海外からサービス需要と国際分業のために輸入に依存する経済システムの弱さが露呈しました。自分たちでマスクを作れなくなったからです。また、これまで当然と考えてきた働き方(現場重視)を変えていかないといけません。在宅勤務やオンラインでの会議体を新たな常態と信じる風土を、この国の意識に注入する必要があります。
 
 
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「鎖国のすすめ:コロナ後の社会」『北羽新報』2020年5月23日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)
 
 ハーバード大学に留学している恩田達紀さんと、毎朝LINEでチャット(オンライン会話)を楽しんでいます。恩田さんは、渡米前は野村総研のビジネスコンサルタントでした。専門は米中の政治関係が日本経済に及ぼす影響分析です。現在はボストンに滞在しています。
 大陸間の情報通信は便利になりました。わたしの日課は、トランプ大統領の記者会見が終わるころを見計らって、恩田さんにスマホから質問のメールを送ることです。おかげで、米国の経済情勢については、一般の人よりかなり早めに情報が入ってきます。
5月も後半に入り、新型コロナウイルスの感染が日米ともに一段落しそうになっています。最近の話題は、コロナ後の国際社会の行方に移っています。
 恩田さんは、その昔は中国本土で流通業コンサルタントを務めていました。ヨーカ堂やセブン-イレブンなど日系流通企業の中国進出を支援してきた方です。ユニクロやトヨタの現地調査をお手伝いしていたとき、偶然にも現地上海でお会いしました。
 以下は、2日前(5月17日)のわたしたちの会話です。
 
(小川)「おはようございます。東京は感染者が5人になりました。紫外線と気温でですね」
(恩田)「ウイルスが元気なのは、湿度が小、気温は最適、人が集積」
(小川)「コロナが終わっても、飛行機に乗る機会はかなり減るでしょうね。わたしは、今年は海外3ヶ所に行く予定が全てキャンセル。来年はいくかと言われても?人間の不信感はコロナがもたらした最大の遺物ですね」
(恩田)「しばらくこれらの感覚は拭えないのでしょうね。この状況が続いたら、日本も外でマスクしていない人がいたら、皆でバッシングするような社会になってきそうですね」
(小川)「人間の移動が自然に抑制されて、経済活動をスローダウンさせるのは地球にとっては優しい方向転換。ウイルスがもたらした社会変革は、長期的な人口抑制だと睨んでます。コロナは途上国の経済成長にブレーキをかけている」
(恩田)「そうですね。多くの産業を自国内で賄える世界にしないと。経済指標が成長前提のGDPではないものが必要ですね。無闇に国際競争を加速させてきたようです」
  
(小川)「日本は江戸時代に戻るべきだと思います。半自給自足、準鎖国状態にしないと。 外の世界から影響を受けて、経済や生活が不安定になりすぎます。グローバリゼーションの行き過ぎを反省したらよろしい」
(恩田)「経済を自国自給率で診ることが重要ですね」
(小川)「全部は無理にしても半分は地域で循環させる」
(恩田)「便利になっても、今幸せを感じることが少ない社会ですね。鬱病が世界に蔓延してひどくならないで欲しいです。アメリカでは多くの人が、お金、名誉、見栄、他人との優位性に縛られて本質的な幸せがわからない世界になっているように思います。もっと個人の幸せを追求できる指標が今世界に必要ですね」
  
 米国人のマネー崇拝批判になったところで夜が明けて、米国東海岸と東京下町とのスマホ会談は終わりました。