(その28)「国産材へのこだわり:秋田杉の町で生まれて」『北羽新報』2018年11月24日号

 野菜や魚肉が国産であることに、どれくらしこだわりますか?先月、葛飾区高砂に住まいを移転しましたが、新居は木造の三階建てにしました。「鉱物」ではなく「木材」を使用することに絶対条件でした。そして、新たに買いそろえたダイニングテーブルとイスは国産のなら材(オーク)にしました。国産材にしたのは、日本の森林環境を守るためです。

 むかしもいまも、「木の家」に住んでいます。14回目の引っ越しでは、取得した土地面積が狭くなりました。二世帯住宅の三階建てになったのですが、木造にしようとすればハウスメーカーも限られてきます。次なる条件が輸入された外材を使用していないことでした。これでさらに選択の条件が限定されました。
 残念ながら、当初に心の中で計画していた「古民家を福島の山奥から移築する」は実現できませんでした。それでも、なるべく国産の木材にこだわって新居をデザインすることできました。11月下旬に入って、外構の工事がおわりかけています。南庭は、「秋田森のテラス」を手掛けた山田設計事務所に依頼しています。
 同郷のよしみで、あまりもうけにもならない仕事を引き受けていただきました。山田さん親子に感謝です。美しい庭ができるはずです。楽しみにしています。
 
 作庭工事は、今月末で完了します。「庭のホテル」(水道橋)を模したつくりで、木製のフェンスで囲っただけの狭隘な庭ではあります。南東の端に、常緑樹を1本だけ植えます。あとは、落葉樹を数種類、雑木林風に並べて雑植することになっています。
 南側には、1.2メートル幅で、これも木製のデッキを配置しました。壁際のライトで、高さ120~200センチに植えこんだ樹木をライトアップします。小あがりの和室から、ちいさな南庭が美しくライトに照らされるはずです。
 庭の工事が完了し、12月4日に次男の家族が引っ越してきたら、これにて新居は完成です。親類や友人を呼んで、新築の庭をめでることになっています。新築祝いにいただいた「ローランペリエ」(ロゼシャンパーニュ 1.5L」のマグナムボトルの栓を開けます。
 以下は、連載28の原稿です。11月24日に北羽新報に掲載されています。
 
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「国産材へのこだわり:秋田杉の町で生まれて」『北羽新報』2018年11月24日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)
  
 本コラムの発信場所が、東京下町の「森下」から「柴又」に変わったことにお気づきでしょうか?先月、葛飾区高砂に引っ越しました。新しい住まいは、山田洋二監督の「男はつらいよ」のフーテンの寅さん(渥美清主演)で有名な柴又帝釈天から、歩いて15分ほどのところにあります。
 新居は下町の閑静な住宅街の中にあって、周囲の住人たちのほとんどが長い間、江戸川の中洲に住んでいる人たちです。巡回でまわってきた亀有警察署の巡査によると、「この地区(高砂8丁目)は、110番のコールがほとんどなく、空き巣やひったくりなどの事件の通報がない安全な場所」とのこと。昔からの町内会組織がしっかりしているらしいのです。
 転居後は、次男の家族4人と一緒に住むことになりました。同居を決めて二世帯住宅を探し始めたのですが、台東区や葛飾区では、新築でも中古でも適当な大きさの二世帯住宅が見つかりません。そこで、土地の取得から家探しをスタートすることになりました。 
 
 家探しをはじめてから約1年で、3階建ての二世帯住宅が建設できる場所に巡りあいました。つぎなる課題は、どの住宅メーカーと契約を交わすかでした。木材の町(能代)の生まれですから、迷わずに木の家を建築することにしました。住宅展示場を回って吟味した結果、候補に残ったハウスメーカーは二社でした。一社は、千葉県白井市で32年間住んできたプレハブ住宅を建ててくれたメーカーです。もう一社は、三階建ての耐震構造設計に定評のある住宅メーカーでした。
 住宅メーカーを選ぶにあたって基準にしたのが、国産材を使用していることです。戦後の住宅ブームで、住宅用の杉材への需要が高まり、秋田県の製材業は活況を呈していました。しかし、その後は東南アジアや北米からの輸入外材に押され、国産の杉材を利用してきた能代の製材所は倒産が相次ぎました。その苦い記憶があったので、国産材を使用する住宅メーカーに設計を打診したわけです。ところが、二番目の住宅メーカーでは北欧のパイン材を使用していました。この段階で、わたしたちは、最初の住宅メーカーを選ぶことに決めました。
 
 さて、新居に移るに当たっては、千葉の家をそのまま残してきたので、新たに家具を買い揃えることになりました。5人家族のときに使っていたダイニングテーブルでは大きすぎたのです。そこで、老夫婦用に小さな食卓を購入することになります。ここでも、わたしは温もりのある国産材(北東北や北海道のオークやブナ)にこだわりました。
 実は、友人が原宿で家具屋さんを経営しています。「ワイスワイス」という変わった名前の店で、社長は佐藤岳利さんという方です。彼が仕入れている家具には、環境に配慮した国産の材木が使われています。経営方針に共鳴していたので、新しく家具を揃えるときは、ワイスワイスに注文すると決めていたのです。
 原宿の店の家具はすべて注文生産で、全国各地の中小規模のメーカーが手作りで丁寧に作っています。「オリジナル家具は、全て森林資源の再生が管理されている木材(フェアウッド)を使用し、そのうち国産材の使用率は50%以上を占めています」(同社HPから)。
  
 そんなわけで、ショールームで現物を確認し、北海道地方で育ったオーク(なら材)を使用した「AKI」というシリーズのダイニングテーブル(150センチ×85センチ)を購入しました。同じくなら材の椅子を二脚も購入しましたので、多少なりとも北日本の森の保全に協力できたのではと思っています。
 自分でも不思議に感じるのですが、生まれ育った環境が、住む家や家具の選択に影響を与えていました。食べ物や衣服でも、わたしのようにこれほどまで国産の素材にこだわる人はそれほど多くはないかもしれません。しかし、この国の環境を守るために、この先もできる限り国産にこだわりたいと思っています。