コロナ禍で環境適応に成功をしている企業の事例を、『創造の架け橋』(2021年3月号、5月号)という雑誌に書かせていただいた。従来のビジネスモデルを根本から変えようとしている企業群の紹介である。
既存事業の大転換という観点から、そうした企業群は4つのカテゴリーに分類できる。(1)業界の常識に挑戦する企業、(2)ダイバーシティー経営企業、(3)地域社会から応援してもらえる企業、(4)DX(デジタル・トランスフォーメーション)に果敢に挑戦している企業の4つのグループである。ちなみに、いま業績が絶好調の「日本マクドナルド」は、(4)DXへの取り組みを通してビジネスモデルの革新に成功した企業のひとつである。
ところで、『創造の架け橋』(3月号:前編)では、花業界の事例を2社、取り上げさせていただいた。どちらも「業界の常識」に挑戦する企業である。コロナ禍で新しく生まれた家庭需要に対応するため、切り花の「サブスクリプション事業」に挑戦しているのは、老舗の花専門店チェーンの「(株)日比谷花壇」と新興ベンチャー企業の「(株)クランチスタイル」である。
日比谷花壇のサブスクリプションは、ブランド名が「ハナノヒ」。コロナ以前の2019年6月にサービスがスタートしていた。ハナノヒのメンバーになると、実店舗へ花を取りに行くことになる。契約プランは、月額987円から6タイプ。例えば、月額1987円のプランは「イクハナプラン」、3987円には「サクハナプラン」と名付けられている。
今年1月のJFMA新春セミナーで紹介させていただいたように、1月現在で取扱店舗数は155店。交換回数実績は160万回。会員数は30,519人である。登録者の9割が女性で、ユーザーの約33%が新規顧客である。初めて来店するユーザーが増加しているものの、後述する「Bloomee LIFE」と比べると既存顧客の割合が大きい。
新春セミナーで、一人の聴衆から、「客単価が低下して採算が悪くなるのでは」との質問を宮嶋社長は受けていた。「客数が増えて大幅に増えているから、クロスセル(関連購買)やアップセル(高単価への移行)で補えている」と宮嶋さんは回答していた。創業144年の老舗企業が、ホームユース市場に果敢に乗り出していく姿勢は感動的でさえあった。
対照的に、クランチスタイルの定額課金モデルは、オーソドックスな宅配型である。若きベンチャー起業家の武井社長が、切り花の定額配送サービス「Bloomee LIFE」を始めたのが2017年。サービス開始から2年半で、会員数が1万5千人を突破していた(2019年3月時点)。コンセプトは、「お花のある暮らしで、毎日にちょっとした感動を」。毎週あるいは隔週で、自宅のポストに封筒入りのお花が届く仕組みである。
登録者の8割が、初めて花を購入する若い女性たちである。関東圏では25軒の花屋さんが、「Bloomee LIFE」の「花のお届けシステム」に加盟している(全国で150軒、2020年3月末現在)。集客方法は、インスタグラムなどを使ったネット上の口コミを通してである。
女性客が9割で、20代(12%)から30代~40代(70%)が中心顧客。コロナ禍の2021年4月には、累積で5万人弱が加入している。
日比谷花壇とクランチスタイルとでは、社歴もビジネスモデルもちがっている。しかし、事業に対する強みの活かし方や方法論は違っても、二人の企業家に共通しているのは挑戦者魂である。常識にとらわれない革新が、花業界の構造を変えようとしている。