「花の効用:老人介護施設編」」『JFMAニュース』2023年6月20日号

 私事になるが、義理の母親(89歳)が葛飾区の老人介護施設に入居している。わが家からは車で5分、歩いて20分ほどのところにある施設である。義母はそれまで、葛飾区が提供する老人向けの住宅に一人で住んでいた。

 

 ところが、物忘れがひどくなってきたところに、家の中で転倒して骨折してしまい、ひとりで自由に動き回ることが難しくなってきたので、わたしたち家族が義母の近くに引っ越しすることにした。いまから5年前のことである。
 同じ町内に移り住んだので、義母の面倒が見られると思ったのだが、物事はそれほど簡単ではなく、結局は、隣駅にある施設への入居を決めた。

 入居してから1年半が経過している。コロナの最中の入居だったので、当初は面会がほとんどできず、リモートの画面越しに、月1回だけ義母と30分ほど話ができた程度である。コロナが5類に変わった今は、ようやく自由に面会ができるようになった。妻が5月に会社を定年で退職したので、いまでは週2回ほど面会に通っている。義母もそれがわかるのか、姉妹の訪問を楽しみにしている。

 前置きが長くなった。先月の「母の日」のことである。義姉が介護施設にカーネーションのアレンジを届けた。その一週間後、妻が義母を見舞ったが、花が半分ほど枯れていた。しかし、義姉が置いていったアレンジは、給水スポンジに花が差してあったので、水がこぼれることがない。妻は、枯れてしまったカーネーションをスポンジから外して、自らが持参したスプレーバラにグリーンを添えてアレンジし直した。

 その後も毎週のように、施設を訪問する際には、「花の入れ替え作業」を繰り返している。そんなわけで、義母の部屋にはいつも新鮮な花が飾られることになった。吸水性スポンジは生分解性がない素材なので、環境問題が指摘される。しかし、独居老人の生活を彩るためには、安全なアレンジの基礎パーツになる。
 妻のフラワーデリバリーを、義母が喜んでくれただけではなかった。「ヘルパーさんたちも、週替わりに到着する花を待ってくれているらしいのよ」とのこと。週替わりで届く花を、施設の入居者だけでなく、職員の方も喜んでくれているらしかった。

 というのも、介護施設では、体の動きが不自由な老人が、誤って花瓶を転倒させてしまいかねないからである。水がこぼれたり、ケガをさせてしまう危険がある。したがって、施設の廊下や共用の空間に飾られるのは、ドライフラワーやプリザーブドが主になる。

 「生のお花はやっぱりいいわよね」と、義母がしみじみと話していたという。訪問の頻度が増えたからだけではないようだ。義姉がカーネーションをプレゼントした後で、何やらぎこちなかった母と姉妹の間のコミュニケーションも円滑になったように感じる。

 コロナの最中、職員さんたちの仕事ぶりに対して、姉妹はやや批判的なことも時にはあった。ところが、花の定期宅配便をヘルパーさんたちに感謝されるようになってからは、人間関係がスムースになったように見える。これも、お花が取り持つ効用なのかもしれない。