今年は夏休み休暇をまったく取らずに、日本マクドナルドの創業からの歴史について執筆していた。11月から12月にかけて刊行される予定になっている。書籍のタイトルは、『マクドナルド 失敗の本質(仮)』となっている。ビジネス本の出版社は、経済経営系ではやや硬派の東洋経済新報社である。
『しまむらとヤオコー』(小学館)や『CSは女子力で決まる!』(生産性出版)など、これまでもビジネス本は何冊か書いている。だが、厳密にいえば、「一社本」(一つの会社のマネジメントの実践を扱った単行本)は、私としては初めての体験になる。東洋経済の編集者(宮崎奈津子さん)と飲食担当の雑誌記者(松浦大さん)と、さらには小川研究室のリサーチアシスタント(青木恭子さん)に支えられて、どうにかラフな原稿は完成している。
この本を書いていて、ひとりの研究者(文筆業)としてだけではなく、事業を運営している人間(経営者)として、とてもたくさんの気づきがあった。JFMAの会員の皆さんとそのことを共有しておきたい。内容の一部は、本の「あとがき」に出てくる話ではある(まだ執筆前の段階)。
一番伝えたいことは、「慢心」に対する警戒心である。日本マクドナルド創業者の藤田田氏(2004年逝去)は、ディスカウント路線が当たって、2000年ごろは「デフレの勝者」ともてはやされた。しかし、ハンバーガーを平日65円まで安くしたことで、マクドナルドには「チープ」なイメージが定着して、顧客が離れて行った。2004年に、日本マクドナルドの社長に就任した原田泳幸氏も、同じ過ちを犯している。2007年まで、100円コーヒーを導入したり、E-マーケティングの成功で客数を増やし、全店売上高を1000億円伸ばした。ところが、メディアに頻繁に登場するようになり、3年間で自著を10冊も刊行するにいたって、マクドナルドの業績は下降に転じた。米国本社の言いなりで、フランチャイズ化を急速に推進したことで、現場の協力が得られなくなった。
二番目に伝えたいことは、両者の失敗の遠因は、グローバルな食のトレンドに対して、マクドナルド(事業)が追い付いていけなかったことである。環境の変化に対して、長期的な視点からビジネスを変えることができなかった。私たちの花業界の人間にとっても、日本マクドナルドの失墜は、“痛い”教訓である。
そして、最後に、ある意味でもっとも大切なことなのかもしれないが、あるときから、藤田・原田・両氏の視野から、顧客と従業員とFCオーナーの姿が消えてしまったことである。企業の所有者は、確かに株主であるオーナーである。しかし、事業を健全に運営するためには、従業員に気持ちよく働いて、来店客にハンバーガーをおいしく食べてもらわなければならない。そして、ビジネス運命共同体の一翼を担ってくれている加盟店や店長たちの幸せが実現しなければ、立派な経営者とは言えない。
日本マクドナルドのハンバーガー事業は、いま創業以来最大の危機に立たされている。それもこれも、基本的には、顧客と従業員のことを忘れてしまった経営者の責任である。