「花産業の国際競争力:オランダ・ツアー報告を聞いて」『JFMAニュース』2022年9月20日号

 今月のアフタヌーンセミナーは、「 JFMAフロリアード視察研修」のツアー報告だった。3年ぶりのJFMA欧州ツアーには、JFMA会員など11名が参加していた。井上道太氏(パーク・コーポレーション) とMPSジャパンの本田さんが報告をしていたのが興味深かった。時代は大きく変わりつつある。

 

 わたし個人は、花産業にコミットするようになった1992年から、10年おきに3回連続でオランダの花博を視察してきた。今回は事情があって、ツアーへの参加を見送ることになったが、皆さんのツアー報告で、4回目の「(仮想)オランダ花博視察」を追体験することができた。貴重な情報満載の報告会だったので、オランダに旅行しなくとも、現地視察を代替できるような錯覚に陥るほどである。

 オンラインで皆さんのレポートを聞いていて、一番印象深かったのは、オランダの国家としてのポジショニングの巧みさと、将来を見据えた予見性と取り組みの先進性である。

 先月号(2022年8月号)の巻頭言では、「植物の時代」というテーマでコラムを書かせていただいている。地球上の脊椎動物の重量シェアを推計したデータを、オランダ自由大学のハリー・エイキング博士のインタビュー(2019年10月)から紹介させていただいた。

 サステナブルな地球環境の維持に関する研究分野でも、オランダは世界をリードしている。持続可能な社会を目指すことに貢献しようとする、オランダ人の関与の背景にあるのは、地球の温暖化で自国の3分の1が水面下に没してしまうことに対する危機感である。わが国の産業界には、知識としての持続可能性についての情報はあるが、オランダ人のような自国の存亡に関する危機感は決定的に欠けている。

 花産業に対するコミットメントも同様である。グローバルな花産業の衰退や技術的な停滞は、オランダの自国経済の優位性を失わせてしまう。花産業や施設園芸の技術革新こそが、オランダの生命線である。ツアー報告の中でわたしが最も感心したのは、そのために教育研究に対して投資する仕組みを、オランダは持ち合わせているということである。

 厳しい社会経済環境の中でも、10年に一回の花博を継続できているのは、国家としての存亡を、農業分野の技術革新と研究教育に掛けているからである。日本の花産業の取り組みは、いまある優位性を維持する施策に留まっている。  

 将来の強みを推進のため、政府(農水省)も業界も、国際的に戦おうとする姿勢を感じとることができない。技術革新や教育研修への投資などを含めて、業界インフラの脆弱さを感じざるを得ない。

 ツアー報告では明確に指摘されてはいなかったが、わたしの懸念は、2027年に開催される横浜花博のコンセプト作りについてである。オランダのように、国際通用性のある明確なテーマ(グリーンシティ)を打ち出すことが、いまのままではできるように思えないからである。何のために、多額の資金を投入して、花博を開催するのか?

 国際博覧会が、お祭りやインバウンド観光のためであってはならない。10年後、20年度の花産業の国際競争力を高めるために、基本コンセプトを企画し、教育と研修の場として花博を運営すべきである。残された時間はわずかである。推進母体の踏ん張りを期待したい。