内藤育子さん(大田花き花の生活研究所 取締役)が書いた「衝撃のデータ・・・切り花消費・53年目の真実」というタイトルの記事が、拝野多美さん(JFMA事務局)から送られてきた。2月11日の「花研ひろば」に掲載されたもので、掲載日を見るとフラワーバレンタインの3日前である。
衝撃的な書き出しの文章は、こんな風に始まっている。
「2024年の切り花支出金額(二人以上世帯、一世帯あたり)は税込み7,684円でした。前年が8,034円ですから単純計算で350円のマイナスです。1972年の切り花が単独項目として統計が発表されて以来、こんな風に推移しています」。1972年の調査開始から「全国切り花支出金額推移(二人以上世帯)」のグラフがそれに続いている。ほぼ左右対称の釣り鐘型の図表で、内藤さんの説明がそれに続いている。
日本の花産業は50年前に戻っている?
「2024年の税込み7,684円は、同じく切り花支出金額がピークであった1997年の58.5%に値する金額です。(中略) 購入頻度も減少しています」。世帯当たりの購入頻度は、2015年の年9.0回が2024年には7.2回に下落、購入世帯割合も、10年前の36.2%が2024年には28.2%と落ち込んでいる。実に悲惨なデータだが、卸市場の研究機関(花研)に所属している内藤さんらしく、最後は、「そこで生産者のみなさまには、さらに増産をお願いしたいところです。生産減少の一途では、品薄感が増して花が高値になり、益々消費者は花を使わなくなってしまうでしょう」と締めくくっている。
⻑々と引用させてもらったが、切り花の消費が減少している背後にある要因は3つである。1コストプッシュ型のインフレ(価格要因)、2生産者の減少と供給意欲の減退(供給要因)、そして、3切り花が「贅沢品」になってしまったこと(需要特性)である。
内藤さんの指摘にもあるが、過去は「業務需要」(葬儀、婚礼、パーティ、稽古事、お祝いなど)が切り花需要のほとんどを占めていた。内藤さんが次号で紹介してくれる明るいデータは、「若者と男性(個人)の花消費」が伸びていることだろう。新しい需要の一部は、わたしたち花業界人が努力して獲得したものでもある。
マーケティング分野で需要開拓の研究を続けてきた筆者の見立てを述べる。言えることは、「花は特殊な商品ではない」ということである。例えば、コミュニケーション手段としての電話は、当初は高額な通信手段で「業務用」だった。それが一家に一台の「家庭財」になり、携帯電話が開発されてから誰でも使える安価な「個人財」になった。
自動車もカメラもプリンターも同様である。そのように考えると、1995年(花消費のピーク)から30年間、日本だけが先進国で花の需要が伸びていない理由がわかる。日本で切り花消費が低迷してきたのは、業務需要依存から脱却できなかったからである。家庭消費の多く占めてきた仏花も、社会的な背景を持つ「業務的な」家庭需要である。
期待できる動きは、家庭財から個人財へのシフトだろう。前回のコラム(2025年1月号)で書いたように、成人式や卒業式で、若者が花を贈るようになった。人々が花を手にする機会が増えることで、その延⻑線上に新しい需要開拓の芽があるように思う。すでに人々が体験した先にこそ、市場の未来がある。花が売れなくなった3つの要因(1〜3)は、新市場開拓の言い訳にはならない。欧米の業界人は、そのハードルを乗り越えて今がある。
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