日本の卸市場は、大正時代の末期に開設された。東京・大阪など都市経済が発展し、農畜産品の需要増に対応して卸市場は規模を拡大し、都市住民と零細な生鮮/青果小売店を結びつける役割を果たしてきた。昭和の恐慌と太平洋戦争でいったん市場は機能を停止したが、戦後は高度経済成長の波に乗り、豊かな消費社会を実現することに貢献してきた。
ところが、農畜産品や水産物については、いまや市場経由率が50%を大きく下回るようになっている。輸入水産物や畜産品では、季節によっては市場経由率が20%を切るようになった。
ところで、切り花に関しては9割近くがいまだに卸市場を経由している。そして、今日にいたるまで、卸市場の存在意義について疑いをさしはさむ人は少数派だった。全国各地の花生産者にとっては、都市部にある中央卸売市場は商取引の場を提供してきただけではない。ファイナンス機能や物流機能を代行してきた。それは当然のこととして、新しい産地の開拓も大手市場が担ってきたといえる。
市場を経由しない「直接取引」を希求する流れは、二つの方向から来ている。ひとつは、市場取引の「機能的な不備」を指摘する論者から出ている問題提起である。市場が価格を決めることで農業生産が不安的になるという主張である。例えば、買い手が決まっていない場合は、商品の品質が保証できない。だから、生産効率の良い農薬や化学肥料を大量に使った農法が優先される。価格だけで需給が決まるので、上質なプレミアム農産品は契約栽培のほうが有利になる。一方で、花の需給をほぼ一瞬で決めてしまうセリシステムでは、高品質の切り花を再生産する生産者のモチベーションが落ちてしまう。
もうひとつは、チェーン小売業が生産段階を統合していく場合である。たとえば、コンビニエンスストアのローソンは、2010年から全国23か所に直営農場を持つようになった。現在、ローソングループの野菜売上高の約10%が、ローソンファームとその周辺の提携農家から供給されている。この場合の引に青果市場は不要である。
ジャガイモや野菜で起こっているトレンドは、将来的に見れば花でも例外ではなくなるだろう。例えば、いまは中規模生産者が品種的に特化した場合を考えてみよう。すでにひまわりの生産で起こっているように、ローカルの生産者が季節の花を大量に生産するような場合は、市場はセリの価格づけ機能を放棄せざるを得なくなる。オークションでは、独占的に荷が集められなくなるからである。想定されるシナリオは、代理店の立場から生産者を支援することである。JFMA理事であるカスミソウ農家(会津よつば)菅家博昭さんと先日話していたら、コスモスが再生産できる価格(>40円以上)を市場が提供できなくなっているそうだ。その穴を埋めるのは、新しい取引の仕組みなのかだろうか。それとも、契約栽培に持ち込むのが正しい選択なのだろうか?